浩一は朝日堂で三冊の文庫を購入したのちに、同じ通りの角田商店へ向かった。菓子でも買って帰ろうと思う。通り沿いには、柳台三丁目公園がある。すべり台と、砂場と、タイヤの遊具があるだけの小さな公園だ。
その公園のタイヤの遊具に座って、一人の制服姿の男子が真新しい漫画本を読んでいた。書店で見かけた上級生の一人だ。辺りを見回すも、他の上級生の姿はない。他の上級生はすでに帰宅したらしい。
彼の手元をよく見ると、漫画本には水色の売上カードが挟まっている。購入したばかりの商品に違いなかった。でも市内に残っている書店は、朝日堂しかない。浩一は意を決して公園に入り、彼に声をかけた。
どうして涙が溢れてくるのか
「あの、すみません、さっき朝日堂にいましたよね?」
彼は漫画本から顔を上げると、一瞬だけ不安げな表情を浮かべた。でもこちらを見ると、途端に眉をつり上げた。
「なんだおまえ、北中の生徒か?」
「あの……、その漫画……」
「漫画がどうした?」
「その……、お金払ってないですよね?」
すると彼は黒目を泳がせて、浩一から視線を逸らした。やはり万引きをしたに違いない。
と、後方から複数人の男子の笑い声が聞こえてきて、浩一は振り返る。
公園の入口に五台の自転車が停まり、ジュースやら菓子やらを手にした上級生グループがこちらへ近づいてくる。彼らは帰宅したのではなく、角田商店で買い物をして戻ってきたのだ。
浩一はうろたえ、一方でタイヤに座る彼は途端に自信に満ちた表情を浮かべる。
「ん? なんだよこいつ?」
「知らねぇけどさ、俺たちが万引きしたっていうんだよ」
おそらくはリーダー格の、短髪で切れ長の目をした上級生が、浩一を小突いた。
「なんだ、おまえ一年か? 俺たちにいちゃもんつけようっていうのか?」
浩一は地面に尻もちをついた。そのころには、上級生六人に完全に囲まれていた。
「おまえ俺たちが万引きしたって証拠あんのかよ?」
「舐めたこと言ってんじゃねぇぞ?」
「なぁ、せっかくだからこいつからカツアゲしねぇ?」
「でもこいつ北中の一年だろ?」
「チクられたらヤバいじゃん」
「でも万引き犯扱いされたんだぜ?」
「とんだ誹謗中傷だよな」
「じゃあ、二、三発殴って歯でも折っておくか?」
「アハハハハ」


















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