「寝る間を惜しんで働く」リーダーが、AI時代に"最も生産性が低い"と断言できる理由
ここで皆さんに知っておいていただきたいのが、「決断疲れ(Decision Fatigue)」というメカニズムです。
人間の意志力や判断力は、無限ではありません。筋肉と同じように、使えば使うほど消耗する「有限の資源」です。朝起きてから、服を選び、ランチを決め、メールに返信し、会議で発言する……。私たちは日々の小さな選択のたびに、この資源を少しずつ削っています。
そして、この資源が枯渇すると、脳はエネルギーを節約しようとして「ある行動」に出ます。それは、「決断を避ける(先送りする)」か、「最も楽な選択肢(現状維持)を選ぶ」ことです。
この現象を裏付ける、有名な研究があります。コロンビア大学の研究チームが、イスラエルの裁判官が「受刑者の仮釈放を認めるかどうか」を判断した1000件以上の事例を分析しました。
その結果、衝撃的な事実が判明しました。朝一番の審査では、仮釈放の許可率は約65%でした。しかし、時間が経つにつれて許可率は下がり続け、昼食休憩の直前には、なんとほぼ0%になったのです。そして昼食を食べて休憩した後、許可率は再び65%に回復しました。
これは何を意味するのか。裁判官たちは、疲れてお腹が空いてくると、受刑者の更生可能性を吟味するエネルギーがなくなり、「却下(現状維持)」という「最も安全で、頭を使わない選択肢」に無意識に流れてしまったのです。
睡眠不足のリーダーは「現状維持」しか選べない
これはビジネスの現場でもまったく同じです。睡眠不足で脳のパフォーマンスが落ちているリーダーは、夕方の裁判官と同じ状態です。
AIや部下が革新的な提案を持ってきても、疲弊した脳ではそのリスクとリターンを天秤にかけることができません。その結果、どうなるか。「うーん、ちょっとリスキーだから今回は見送ろう」「今は決められないから、いったん持ち帰って検討しよう」。
このように、無意識のうちに「現状維持」や「先送り」という楽な選択肢に逃げ込んでしまうのです。これでは、どんなに優秀な部下がいても、どんなに高性能なAIを導入しても、組織は一歩も前に進みません。リーダーの脳の疲労が、組織の革新を殺してしまうのです。



















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