見かねた夫が、閉店後に三人を事務室に呼び出した。このとき夫は、珍しく声を荒げて三人を叱っていた。
「おまえたちにとってはただのバイトかもしれんが、こっちは店の信用がかかっているんだ!」
「店を出すのがどれだけ大変なのか、おまえたちには分からないだろう!」
「勤務態度を改めないようなら、今月でクビにするからな!」
三人は特に口答えするわけでもなく、俯いて夫の話を聞いていた。
お店のためにもこれであの三人の勤務態度が良くなってくれればと、絢香は思う。
何かただならないことが起きている
翌日の夕刻、絢香は工藤たちと入れ替わりで店を出た。帰宅すると、掃除洗濯と家事をしつつ、夫の帰りを待つ。夕食にはポークカレーを作った。ポークカレーは、夫が二番目に好きな食べものだった。
夜営業終了後は、夫が事務室で経理作業をして、工藤たち三人が厨房の片づけをするのが常だった。その日も何事もなく締め作業は終わり、夫は夜十一時に帰宅した。二人で遅い夕食を食べて、少しばかりテレビゲームなどして寝室へ向かう。
事態が一変したのは、一変していることに気づいたのは、翌朝のことだった。
いつも通り、絢香は裏口から店舗へと入った。事務室で電話が鳴っている。営業時間の問い合わせだろうか──。絢香が受話器を取ると、電話向こうの相手は怒鳴り散らす。
「とんでもねぇ店だな! 早く潰れちまえ!」
迷惑電話か悪戯電話だと思い、相手の話を聞かずに受話器を置いた。すぐにまた電話が鳴った。またさっきの男かと思ったが、今度は中年女性だった。
「不衛生な店ね! 気持ち悪い、吐き気がするわ!」
先ほどとは違う人が、似たようなことを言っている。受話器を置いた瞬間に、次の電話のベル音が鳴る。何か分からないが、何かただならないことが起きている。


















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