ラーメン店を「バイトテロ」で閉店に追い込んだ大学生4年生が"特定祭り"で炎上、内定取り消しで土下座の末路 『子供部屋同盟』4章②

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それでも夫は、ラーメンの味には自信を持っていた。早朝から時間をかけて、丁寧に仕込みをする。下拵えをした丸鶏ガラと、数種の魚介と香味野菜を寸胴に入れて、ときに火を見ながら灰汁(あく)取りをしていく。寸胴に蓋をしてあとはほったらかしというわけにはいかないらしい。手が空くと、鶏モモと豚の肩ロースで二種のチャーシューを仕込んでいく。絢香の役割は開店前の清掃や、ご飯炊きや、煮卵作りや薬味の準備で、寸胴にはほとんど触らせてもらえなかった。

開店前の試食のさい、絢香はいつも味の感想を求められる。夫が作ったラーメンだから、どうしても贔屓目に見てしまう。でもそれを差し引いても、やはり美味しいと思う。流行りのがつんとくる味ではないが、鶏ガラベースの繊細な味の醤油ラーメンだ。

脱サラから五年をかけて叶えた夢

開店から半年が過ぎたころから、口コミサイトに高評価レビューが増え始めた。レビューの効果なのか客足も増え、週に何度も通ってくれる人もいる。

夕食のピーク時には空席がなくなり、数人の外待ちができることもあった。話題の新店としてラーメン雑誌の取材を受け、記事が掲載されると客足はさらに伸びた。

夏が終わり、銀杏の葉が色づくころになると、麺屋ムラカミは行列のできる人気店になっていた。

夫は脱サラから五年をかけて、夢を叶えたのだ。

翌年の早春、慰労会と結婚記念日を兼ねて夫と外食をした。近所のイタリア料理屋で、ちょっとしたコースを食べる。店を始めてからは常に多忙で、こういう時間はほとんど取れなかった。

お互いにワインをけっこう呑んでしまい、夜風を浴びて酔いを醒ましながら歩いて帰る。ほどなくして、通り向こうに七階建ての自宅マンションが見えてくる。マンションの部屋は2DKとそこまで広くないが、二人で生活するには充分だった。

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