直人はパソコンの前で頭を抱えて奥歯を噛みしめた。腹の中に溜まった憎悪が込み上げてきて喉が焼かれるようだった。
清美の慣れた口ぶりからして、おそらく奴は飲みの席で何度もこの話をしている。そしてネット記事を見せて、私を笑いものにしている。私の平凡な幸福を奪ったこの小娘は、なんの懲罰も受けずに社会を舐め腐って生きているのだ。
直人は以前に若林が話していた、SNSの呟きのスクショ画像も何枚か送ってもらった。清美の呟きを見て、直人は顔面を硬直させる。
──裁判とかダルイから、示談してくんないかな
──示談金って五十万くらい?
──五十万くれんなら許してやってもいいかな
おっさん、ネット記事になってて草
投稿日はどれも昨年の二月半ばで、つまりは直人が留置場にいたころだ。直人が檻の中で囚人のような生活をしていたとき、あの女はこんな投稿をしていたのだ。そして起訴された付近の日付では、こんな呟きをしていた。
──おっさん、ネット記事になってて草
──会社クビになんのかなw
──でも悪いことしたんだからしょうがないよねwww
直人は再び頭を抱えて奥歯を噛みしめる。やはり運が悪かったなどと言って片づけることはできない。強請りが成立しても、若い女だと金額はたかが知れていると若林からは聞いている。少額でもかまわない。奴に私からの懲罰を与えたい。私の中の憎悪の炎が消えない限り、平凡で幸福な生活を取り戻すことなど不可能だ。
翌週、再び若林から連絡がきた。
──朗報です、ようやく加藤清美の弱みを握りました。
──加藤清美はレア出勤で、池袋のデリヘル店に勤務していますね。店名は池袋ミルクセーキ、源氏名はユリナ。もちろんデリヘル勤務は違法ではありませんが、これをネタに強請ることはできます。彼氏なり家族なりには、内緒で勤務していることでしょう。
──ただ、正直デリヘル勤務じゃネタとして弱いですね。強請りが成立するかどうかは微妙な線です。成立しても、せいぜい五十万程度でしょう。吉田さんには大赤字です。いかが致しますか?
直人は五十万でもいっこうにかまわなかった。金が欲しいのではない。奴に懲罰を与えたいのだ。「強請りを依頼します」直人はパソコン画面に打ち込み、エンターキーの上に指先を置く。
しばらく画面を見つめたのちに、指先を持ち上げ、いつかと同じように頭を抱え込んだ。
数分後、直人は打ち込んだ文言をすべて削除した。
次のように打ち込み、エンターキーを押す。
──調査はここまでで充分です。約束通り、着手金をお支払いします。有益な情報をありがとうございました。
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