──調査報告です。ひとまず人探しは完了しました。女の氏名は加藤清美(きよみ)、台東区根岸××のアパート在住、新橋のキャバクラ店アゲハチョウに勤務。女の画像を添付するので、吉田さんがお探しの人物で間違いないかご確認ください。
腫れぼったい一重瞼のあの女だった
街中で隠し撮りしたと思われる女の画像が、何枚か送られてきた。髪色はアッシュグレイに変わっているが、特徴的な腫れぼったい一重瞼、赤らんだ鼻頭、薄い唇──、間違いなくあの女だった。
──たった三日で、あの女を見つけるとは驚きました。
──簡単ですよ。今の若者は、何かしらSNSをやってますからね。吉田さんが逮捕された日付付近で、痴漢の件を呟いてましたよ。まぁ、呟き自体はたいした内容じゃありませんでしたが、SNSアカウントさえ特定できれば、生活圏の特定も容易です。
若林はその筋のプロだと確信した。政治家から二千万を強請ったという話も、セールストークではなく事実だろう。直人はこの裏の探偵に畏怖を覚え、同時に信頼を覚えた。
この男なら、あの女、加藤清美に懲罰を与えることができる。
直人は若林に調査依頼をしたのちも、日中はハローワークで就職活動をしていた。その日も目ぼしい求人は見つからなかった。溜息をもらしつつ、ハローワークの駐輪場から自転車を出す。
駐輪場の先では、冬晴れの空の下に、梅の樹木が桃色の花を咲かせていた。せめて桜が咲くころには、再就職の目途を立てたい。でも現状ではその取っ掛かりすらつかめない。
起訴時に実名報道されたがゆえに、大手企業への再就職は絶望的だった。痴漢の前科がある四十歳間近の男を、積極的に雇う大手企業など存在しない。ハローワークの職員には、介護や福祉といった、まったく馴染みのない職種も勧められている。しかしなんの資格もない自分が、今さら介護の仕事など勤まるのだろうか──。直人は再び溜息をもらし、自宅マンションへと自転車を走らせた。
玄関ドアを開けると、クリームシチューの匂いがした。
廊下の奥から、真奈がたどたどしく駆けてきて、今日はパパの好きなクリームシチューだよ、直人を見上げて言う。
直人は娘を抱き上げて、マナの好きな食べものでもあるな、そう言ってリビングへと入る。キッチンでシチューの仕上げに取り掛かっていたらしい妻は、木べらを片手に振り返って、おかえりとだけ告げる。
家族三人で、食卓を囲む。
真奈は小さな手にスプーンを握って、不器用にシチューを口へ運ぶ。口のまわりが、すぐにクリーム色に汚れていく。ときどき妻が、真奈の口元をティッシュで拭ってやる。
「マナちゃん、どうしてニンジンは残しているの?」
「ニンジンはね、最後にたべる」
「そう言って、また残すつもりでしょう?」
「だってニンジンは、変な味がするんだもん」
「変な味ってどんな味?」
「ニンジンの味」
そんなやり取りを見ていると、妻や真奈のためにも、早く安定した職に就きたいと思う。



















無料会員登録はこちら
ログインはこちら