「私、恋愛の仕方がわからないんです」 彼女がそう漏らすたび、筆者は「大丈夫、自分の気持ちを出す練習を一緒にしていきましょう」と伝え続けた。
そんな彼女が出会ったのが、まこと(42歳、仮名)だった。彼は都内で小さな工務店を営む、実直で飾り気のない男性だった。
お見合いの席での第一声が、「今日は来てくださってありがとうございます。緊張して眠れませんでした」と言う。なんとも不器用で正直な告白だった。りょうこはその言葉に思わず笑ってしまい、「こんなにまっすぐな人がいるんだ」と、温かな気持ちになったという。
仮交際が始まってからも、まことの優しさと実直さは変わらなかった。デートの終わり際、りょうこに「今日も楽しかったです」と照れながら言い、次の約束は必ずその場で決める。LINEの返事も誠実そのもの。何より彼は、りょうこが介護の話をすると真剣に耳を傾けて言った。
「大変でしたね。りょうこさん、ずっと頑張ってきたんですね」
その一言に彼女は思わず涙がにじんだ。「つらかった」と口に出したことも、「頑張ってきた」と言われたのも、初めてだったからだ。
3回目のデートの日、彼は真剣交際を申し込んだ。けれど、彼女の顔は曇った。
「私、家庭の事情で、これまで自分の人生を後回しにしてきました。自信がないんです。私なんかで、まことさんを幸せにできるでしょうか」
不安と、長年しみついた“遠慮”が口をついて出た。すると、まことはしばらく黙って彼女を見つめ、こう言った。
「りょうこさん。僕は幸せに“してもらう”ために結婚したいんじゃないです。りょうこさんと一緒に、2人で幸せになりたいんです」
その言葉は、彼女の胸に静かに落ちた。長いあいだ張りつめていたものが、すっとほどけるような感覚があった。そして、真剣交際に進んで2カ月後、2人は成婚退会をしていった。
3組のカップルに共通するのは
この3つのカップルに共通しているものがある。それは、立派な覚悟や大胆な決断というよりも、もっと静かで、もっと人間的な勇気だ。
結婚は、完璧な2人が出会って成立するものではない。 不安や弱さごと相手に渡し、それを受け取ってもらえたとき、初めて“2人の関係”が育ち始める。他人だった2人が絆を深め家族となっていく……。筆者はそんな気がしてならない。
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