東大病院の医師逮捕で明るみになる「医療機器メーカー」の不正の"深層"――いまだ存在する「自由に使える」奨学寄付金と企業と大学の構造汚染

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この事件により奨学寄付金の立件のハードルは下がった。だが、筆者が不思議に思うのは、なぜ東大の准教授がこのことを認識していなかったか、だ。

奨学寄付金が贈収賄の対象になり得ることは、三重大学の医師が逮捕された21年1月以降、「公知」だった。その後も奨学寄付金を私的流用していたのは、あまりにも非常識だし、教職員に奨学寄付金の適正使用を指導しなかった東大病院幹部の不作為も大いに問題だ。

不祥事が相次ぐ東大医学部

最後は、東大医学部の自己規律について述べたい。

近年、東大医学部では不祥事が相次いでいる。12年には、血液腫瘍内科教授が患者の同意なく臨床データを製薬企業へ送付していたことが発覚。個人情報保護と倫理遵守の欠如が問題視された。

14年には、大学院進学を希望する医局員の親から金品を受け取っていたとして、眼科教授が諭旨解雇されている。

16年8月には、糖尿病代謝内科の論文でのデータ改竄疑惑が外部から告発された。同大学は予備調査を経て、17年8月に調査委員会報告を公表。いくつかの不正を認定した一方で、指摘事項の大部分を「不正なし」と判断し、調査過程や説明の不十分さが批判された。

18年10月には、マイトラクリップという心臓カテーテルを用いた先進医療を受けた男性が術後に合併症を生じ、死亡した。適応外での使用や事故未報告が「隠蔽」として問題視され、東京都は医療法に基づき立ち入り調査を実施し、国会でも取り上げられた。

今年5月には、日本化粧品協会が共同研究を進める皮膚科教授に対し、高級クラブや性風俗店での接待を強要されたとして、総額約4239万円の損害賠償を東京地裁に提訴した。訴状などによれば、研究契約を名目に接待費用の支払いを要求し、「殺すぞ」「金を持ってこい」と脅迫音声が存在することも明らかになっている。

そして、今回の収賄事件だ。

東大医学部は、明治以来の先人たちが築き上げた国民の財産だ。次世代に引き継ぐために何をすべきか。是非、議論を進め、再生を目指してほしい。このまま何もしなければ、東大医学部はその歴史的役割を終えることになるだろう。

上 昌広 医療ガバナンス研究所理事長

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かみ まさひろ / Masahiro Kami

1993年東京大学医学部卒。1999年同大学院修了。医学博士。虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。

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