東大病院の医師逮捕で明るみになる「医療機器メーカー」の不正の"深層"――いまだ存在する「自由に使える」奨学寄付金と企業と大学の構造汚染

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

医療ガバナンス研究所は、製薬企業が公開している支払いデータをすべて集計し、医師単位・大学単位で検索可能な「YEN FOR DOCS」を構築、メディアや研究者、警察など、第三者によるチェックを可能とした。

一方で、医療機器メーカーの開示は著しく遅れている。

業界団体である日本医療機器産業連合会の透明性指針はあるものの、公開義務は弱く、企業ごとに形式も範囲もバラバラだ。講演料やコンサル料を医師名で開示しない企業も多い。「YEN FOR DOCS」では24年10月から医療機器メーカーのマネーデータベースも公開しているが、一部のデータしか提供できていない。

両者の差は、企業規模によるところが大きいだろう。

製薬協は、武田薬品や第一三共などグローバル化した大企業がリードするため、株式市場や国際社会からガバナンスが問われる。対して、医療機器メーカーの規模は小さい。医師への「キックバック」が強力な販促行為であるため、刑事事件が起こっても贈賄が後を絶たないと筆者は見ている。

ただ、今回の東大整形外科の事件は世間の注目を集め、国会でも議論されている。警察だけでなく、厚労省も動くだろう。世論に押される形で、透明性を向上させるきっかけになることを願う。

「奨学寄付金」の使い道

次のポイントは、奨学寄付金を収賄認定したことだろう。奨学寄付金とは、企業から「研究奨学」のために大学に寄付される金だ。大学により異なるが、大学本部と医学部が一部を抜き、残りを企業が指名する研究者が使う。

奨学寄付金は研究者が「自由」に使えるため、企業と大学の間で契約が交わされ、研究資金の使途が厳密に規定される「委託研究」や「特定研究」とは対照的だ。

もちろん、まったくチェックがないわけではない。資金自体は大学が管理するので、研究費の使途は大学も把握している。今回、逮捕された整形外科医のように、パソコンやタブレット端末などは、当然、支払いが認められる。ただ、「家族に提供する」などの不適切使用までチェックするのは難しい。

奨学寄付金に関しては、支払う側である企業が抱える問題も大きい。というのも、奨学寄付金は企業の営業部門が管理し、研究開発部門が管理する「委託研究」や「特定研究」の資金とは違うからだ。これでは大学に奨学寄付金を渡すのは研究開発を進めたいからではなく、売上を増やしたいからだ、と思われても仕方がない。

次ページ「労せず儲かる」仕組みの問題
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事