東大病院の医師逮捕で明るみになる「医療機器メーカー」の不正の"深層"――いまだ存在する「自由に使える」奨学寄付金と企業と大学の構造汚染

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医薬品や医療機器の処方権は医師にある。

保険診療では自己負担を除き、保険者(全国健康保険協会と健康保険組合)が医療費を負担する。加えて、高額医療費制度が存在するため、自己負担には上限がある。

この結果、医師は患者の懐具合を考慮せず、医薬品や医療機器を処方、つまり「発注」することができる。もちろん、医師自身の懐も痛まない。

医師と企業が結託すれば、労せずして巨額の売上が期待できる。新薬や医療機器の採用に奨学寄付金はつきもので、従来、製薬企業や医療機器メーカーと大学教授は、この仕組みを利用してきた。ある製薬企業社員は「ショバ代で、相場は1件あたり100万~300万円程度だった」と筆者に話す。

状況が変わり、奨学寄付金を収賄認定するきっかけとなったのは、21年1月に三重大学医学部附属病院の元麻酔科教授が逮捕された事件だ。

この医師は、小野薬品工業が販売する抗不整脈薬の使用拡大を目的として、同社から奨学寄付金の提供を受けたとして、第三者供賄罪に問われた。小野薬品は大学名義口座に奨学寄付金200万円を振り込み、教授は薬剤使用量を増やしたと認定された。

津地裁は23年1月、教授に対して懲役2年6月・執行猶予4年の有罪判決を言い渡し、名古屋高裁も控訴を棄却して判決は確定した。

この事件は、「表の金」とされてきた奨学寄付金に賄賂認定をしたわけで、関係者に衝撃を与えた。これ以降、多くの製薬企業は奨学寄付金を廃止する。医薬業界誌『医薬経済』23年7月27日号によれば、大手製薬企業で24年度以降に奨学寄付金を継続するのは、中外製薬1社という。

高かった立件のハードル

余談だが、本件の立件へのハードルは高かったはずだ。なぜならそれは、三重県が医師不足だからだ。麻酔科医が逮捕されれば手術ができなくなり、医療現場に大きな影響を与える。ある警察関係者は「現場レベルでは立件の方針を固めても、上層部がひよる」と話す。

だが、津地方検察庁はひるまなかった。

この事件の指揮をとったのは森本宏検事正だ。日産自動車のカルロス・ゴーン前会長らを起訴するなど、数多くの大型事件を手掛けた検察のエースだ。「原子力業界など医療以外の業界では、どんな形でも金が渡っていれば贈収賄に問うことができる」(警察関係者)そうで、森本氏は医療界を特別視せず、厳格な基準を当てはめた。

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