海外客の言葉「源泉かけ流しはもったいない」に衝撃…なぜ私たちは「かけ流し信仰」を抱くのか?人気温泉地で"湯の当たり前"が揺らぐ瞬間

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一方で、混同されがちな「源泉100%かけ流し」とは、加水・加温・塩素消毒を一切行わない、湧いたままの状態を意味する。源泉の温度や湯量の条件をすべて満たす施設でしか実現できないかけ流しである。つまり「源泉かけ流し=手を加えていない湯」という認識は、正確ではないということだ。

北川さんは、こう語る。

「“源泉100%かけ流し”と聞くと、湧いたままの天然の湯をそのまま使っていると思う人が多いですが、実際は“源泉そのものを使っている”という意味に近いんです。源泉の温度が高すぎる場合は、自然冷却や熱交換器を通して温度を調整することもあります。完全に“湧き出たまま”の状態で入れる温泉は、全国でもごくわずかです」

嬉野の源泉温度は約90度。人が入浴できる温度まで下げるには、冷却パイプや熱交換器、時にはわずかな加水が必要だ。そうなると「源泉100%かけ流し」とは、名乗れない。しかし「源泉かけ流し」とは名乗れる。“かけ流し”という言葉自体は、湯の純度の話ではなく、湯の流れ方の話なのだ。

北川さんはさらにこう指摘する。

「源泉100%かけ流しって本来、小さな浴槽だからこそできることなんですよ。湯をこまめに入れ替えて、鮮度を保てる。でも大浴場のような広い浴槽で源泉100%かけ流しをやると、湯を膨大に使うし、正直もったいない。衛生的にもリスクがあります」

つまり、“源泉かけ流し”は小さな空間で湯を新鮮に保つための方法として発展したものであり、広い浴槽で無理に行うと、むしろ“持続しない”構造になってしまう。それでも多くの旅館が「かけ流し」を売り文句にするのは、「循環ろ過よりかけ流しのほうが“自然で上質”」という価値観が根付いてしまったからだ。

「バブルのあと、“癒やし”や“本物志向”が求められた時代に、かけ流し=本物というイメージが定着したんです。でも、それは温泉を売り出すマーケティングによって作られた価値観なんですよね」

見過ごされてきた「循環ろ過式」の真価

旅館大村屋
旅館大村屋の浴槽(筆者撮影)
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