新聞ですら間違えた「台湾問題」に対する日本政府の立場。「日本は台湾を中国の一部と認めている」と思い込む人たちの課題

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

ここから客観的に読み取れるのは、「台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部」というのはあくまで中国側の主張であって、日本はそれを「承認(recognize)」しているわけではないということだ。日本は、中国がそのように表明している事情を「十分理解」し、その意見を「尊重する」と述べることで、相手のメンツには一定の配慮を示しつつも「賛同はしない」、しかし「議論の余地は残す」という外交の妙味を持たせている。

日本の外務省のサイトにはこの日中共同声明の英語版が補足的に掲載されているが、そこを見てみると日本側のニュアンスがより明確になる。「respect」は日本語だとあっさり「尊重する」と訳され、ポジティブな賛同の意味に誤解されがちだが、実際には agree(合意、賛同)やsupport(支持)より弱い表現であり、「否定はしないが、賛同もしない」、「相手の立場を踏まえているが距離をとる」というニュアンスを含む。

日中英それぞれの言語でも齟齬がない

中国語のニュアンスはどうであるのか。日中共同声明における日本語の「承認する」の部分は、中国語では「承认」となりこれは日本語の「承認」とほぼ同じ意味で問題はない。一方で「重ねて表明する」に対応するのは、「重申」であり、これは文字通り「繰り返し述べて強調する(reiterate)」という意味を持ち、外交文脈では強調度の強い語として用いられる。

また、「十分理解し、尊重し」の部分は中国語で「充分理解和尊重」と表現されるが、これも日本語とほぼ同じニュアンスで“相手の立場を否定はしないが、同意も承認もしていない”という中立的な距離感を含んでいる。日中間でこの声明文の解釈をめぐって大きな齟齬が生まれるような余地はなく、日本語・英語・中国語いずれにおいても整合的であると言える。

参考までにアメリカの事例も見ておきたい。アメリカと中華人民共和国は国交樹立に関連した3つのコミュニケを発表しているが、とりわけ重要なのは、1978年に発表され、1979年に発効した「アメリカ合衆国と中華人民共和国との間の外交関係樹立に関するコミュニケ」である。ここでも重要なポイントは2つだ。

アメリカは「中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であることを承認する」
The United States of America recognizes the Government of the People’s Republic of China as the sole legal Government of China.
「中国はただ一つであり、台湾は中国の一部であるという中国の立場をアクノレッジした」
The Government of the United States of America acknowledges the Chinese position that there is but one China and Taiwan is part of China.

1つ目は日本の場合と類似しており、「recognize」は法的な政府承認を意味する。問題は2つ目の 「アクノレッジ(acknowledge)」である。日本語だと慣習的に「認識する」と訳されるが、そのニュアンスは support(支持する)や recognize(承認する)よりも弱く、「中国がそのような主張をしていることは承知している」という距離をとった表現に近い。

次ページ日本外務省もニュアンスを残して示す
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事