太一は答えられない。
「ここの営業所の業績は、埼玉西地区でも下から数えたほうが早いくらいだ。坂戸ニューシティにっさいという、有利な条件があるにもかかわらずだ。上層部でも、緊急に対策が必要な営業所だと判断されている。私はAMとして、上層部の期待に応えねばならない。この地域の内情については、私より佐藤君のほうが詳しいはずだ。なにせ君はここですでに二年半も勤務している。私よりも先輩だ。だから私に教えてくれないかね。にっさいがあるのに、なぜ業績が伸びないのか教えてくれないかね」
太一は答えられない。
「で、業績不振の理由は?」
「黙っていても仕方ないじゃないか。こんなふうに職員全員が集まって、貴重な勤務時間を割いているんだ」
他の職員は憐みとも侮蔑とも取れる瞳を、太一へ向ける。あの冷たい脂汗が背中に滲(にじ)む。
「やはり川東コーポの影響が大きいのではないでしょうか」
「川東コーポは数か月以内に潰れるのか?」
「は?」
「川東コーポは数か月以内に潰れるのかと訊いている」
「いえ、業界最大手ですし、まず潰れることはないかと」
「なら坂戸営業所は、川東コーポが東口にある状態で業績を上げねばならないだろう。近隣に川東コーポがある。これは最初から分かっていることだ」
「はい」
「ではなぜ坂戸営業所の業績が横ばいなのか、営業所の先輩として私に教えてくれないかね」
「これまで努力してきましたが、力及ばず申し訳ありません」
「君が努力したかどうかは訊いていないんだよ。結果が出ていない理由について訊いているんだ」
「申し訳ありません」
「いや謝れだなんて言ってないよ。理由を訊いているんだ」
「はい」
「はいじゃなくて、理由だよ理由。君、日本語は分かるよね?」
「はい」
「で、業績不振の理由は?」
「すみません」
実に三十分にわたり太一は全職員の前で吊るし上げられ、さしたる結論も出ないままに定例会議は終わった。会議後にホワイトボードの片づけをしていると、年配の男性事務職員が話しかけてきた。



















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