《ミドルのための実践的戦略思考》伊丹敬之の『経営戦略の論理』で読み解く化粧品・健康食品メーカーの・経理担当課長・小泉の悩み

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《ミドルのための実践的戦略思考》伊丹敬之の『経営戦略の論理』で読み解く化粧品・健康食品メーカーの・経理担当課長・小泉の悩み

■ストーリー概要:

小泉は、中堅の化粧品・健康食品メーカー、ナチュラル・ビューティー(NB)社に務める経営企画部・経理担当課長である。

競争の激しい美容・健康業界においてNB社は、丹念なモノづくりの精神に基づいた品質の高さに定評のある中堅企業であり、特定の顧客層からは根強い人気を得ていた。特にマス広告などはしてこなかったこともあり、「知る人ぞ知る」というニッチプレイヤーであったものの、一度購入した顧客からは高いリピート率を得ており、これによって確実に収益を伸ばしてきた。

しかし、昨今NB社の業績に異変が起き始めていた。今までは売上、利益ともに年平均3%ずつの成長を遂げていたのだが、この数年、成長がぱったりと止まってしまったのだ。その背景にあるのは、既存顧客のリピート率は継続的に維持できているものの、新規顧客をほとんど獲得できていない、という事実だった。

「良い商品を作り続けていれば確実に売れる」という創業者の理念の下、愚直なまでにモノづくりにこだわっていたNB社では、マーケティングなどにはほとんどリソースを投下してこなかった。いわば顧客の口コミだけが頼りだったのだが、FacebookやTwitterなどを活用した競合のマーケティング戦略の陰に隠れて、まったく噂にも上らない存在になってしまったのである。

営業担当はこの状況に問題意識を持ち、マーケティング担当の部署を作り、新規顧客に対する認知度向上のために積極的に資金投下するべき、という意見を持っており、経営陣にもその考え方は共有されているようであった。

小泉は、その状況について、経理という立場から危機意識を持っていた。新規顧客の開拓に向けて資金投資することは賛成なのだが、新しく組織を立ち上げることになると、人件費も増えることが想定されるし、広告費用なども増えることになる。つまり、固定費が増加することになるのだ。

この状況下において、固定費が増えることは果たして良いことなのか。マーケティングに投資したとして、その結果を刈り取れるのは何年後になるのか--と、小泉は疑念を持っていた。NB社は、このままでは次年度にも赤字に転落しかねない。イメージを大事にする同社にとって、決算での赤字転落が紙面に掲載されることは絶対避けたいことでもあった。

一方で、小泉にはひとつのアイディアがあった。それは、コールセンターのアウトソーシングである。NB社は設立当初からお客様窓口センターというものを自社内に抱えており、現在も30名程度の社員が所属していた。しかし、この機能を社内に抱えておくことに小泉は疑問を感じていた。

顧客接点が大事なことは小泉も分かっていたが、コールセンターは新商品が出た後などは忙しそうであるものの、繁閑の波が激しく、暇そうなときは稼働していないことも見受けられる。そして、クレーム処理など精神的に負荷のかかる業務も少なからず発生し、コールセンター配属社員の異動希望や転職者などが絶えなかった。

昨年の異動で小泉の同期の佐藤もコールセンターにおける管理職という立場で急きょ異動になったのだが、佐藤からはどれだけ職場の雰囲気が悪いか、愚痴を聞かされることも多かった。他方、最近はコールセンター業務に特化した業者も出てきており、クレーム処理対応も含めて、その手のプロフェッショナルがいるということも聞いていた。

小泉は自分の仕事ではなかったものの、内々にアウトソーシング会社に連絡を取り、アウトソーシングをした場合の簡易見積もりを入手していた。その見積もりを踏まえると、コスト削減効果は想像以上に大きかった。小泉は確信した。「コールセンターをアウトソースし、その資金でマーケティングに投資すべきだ」と。

もちろん、より緻密な試算は必要だが、経営企画部長にぶつけてみる価値はありそうに思えた。長らく抱えてきたコールセンターだけに実際にこの意思決定が通るまでにはいろいろな障壁がありそうだが、このコスト削減の具体的な数値のインパクトに勝るものはないだろう、と小泉は考えていた。

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