《ミドルのための実践的戦略思考》伊丹敬之の『経営戦略の論理』で読み解く化粧品・健康食品メーカーの・経理担当課長・小泉の悩み

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大事なことのもう一つは、日頃から「職場における流れを意識する」ということです。

本書の著者・伊丹敬之氏は、『見えざる資産の戦略と論理』という書籍にて、「企業の中の仕事の場で人々が働いていると、その仕事の場ではふつう、3つのものが同時に流れている。カネ、情報、感情である」と述べています。

「カネ」については分かりやすいでしょう。何らかのサービスや商品を考え、それを販売し、その結果として顧客からの対価(=カネ)が循環していく、ということはイメージしやすいと思います。

しかし、忘れてはならないのは、それと同時に、組織内には「情報」や「感情」も循環している、ということです。顧客とのコミュニケーションによって情報を得て、それを開発につなげ、製品が生まれる過程でその必要情報がまた下流に流れていく。そして、そうした仕事の過程で人々が喜びや悔しさなどの感情を持ちながら仕事をしている、ということです。リアルな人間集団だからこそ、情報や感情という目に見えないものの相互作用が起きており、それが経営というものを形作っているのです。

しかし、カネとは違い、情報や感情というのは、組織の壁に非常に弱い(=組織をまたぐと変質してしまう)、ということや、誰が伝えるかによって変化してしまう、という非常にやっかいな特性があります。つまり、ビジネスシステムがあまりにも長い企業は、上流から下流までの流れが容易に行き詰まる、もしくは変質して伝わる、ということが頻繁に起きるのです。

ビジネスシステム各機能間の誤解や不和、不整合などは、こういったビジネスシステムの目詰まりによって起こります。それを前提に考えると、ビジネスシステムを他社アウトソースする、ということや、海外に持っていく、ということは、情報や感情の流れが切り離されやすい、ということです。

したがって、もしそのような意思決定をするのであれば、具体的に誰が、もしくはどういう組織が情報の流れに責任を持ち、具体的にどのタイミングやどういう場でどうやって情報を流通させていくのか、ということを真剣に考えることとセットにすべきです。

そして特に、今回のようなカスタマーセンターのように顧客接点とかかわるところの意思決定は本当に慎重に考えるべきでしょう。経営にとって貴重な情報の多くは、顧客接点から生まれます。そして、社員の感情(モチベーションや仕事に対するコミットメント)は、生の顧客との接点によって生まれることが多いのです。そういったことを抜きに、経済合理性だけでビジネスシステムを考えることの危険性を意識しておくべきでしょう。

もちろん、こういうことを意思決定するのは、トップマネジメントです。しかし、その意思決定に際して「現場における情報や感情の流れ」を正しく伝えるのがミドルリーダーの役割でもあります。現場を支えるミドルリーダーだからこそ、日頃からこういった現場に流れる「目に見えないもの」に対する感度を持ってビジネスに取り組んでほしいと思います。

さて、今回は伊丹敬之氏の書籍を使いながら、ビジネスシステムを考えてみました。昨今の日本企業が置かれた外部環境の影響によって、皆さんの周辺でも、どの機能を海外移転するか、はたまたアウトソースをするか、といったことが議論にあがる機会が増えてきていると思います。この理論が教えてくれる重要なポイントは、「短期的なコスト効率だけによって意思決定をしてはならない」ということです。皆さんも是非その視点の広がりを持って、自分たちの企業のビジネスシステムを見返して、あるべき姿を考えてみていただければと思います。

参考文献:
『経営戦略の論理』
『ケースブック 経営戦略の論理』
『見えざる資産の戦略と論理』


《プロフィール》
荒木博行(あらき・ひろゆき)
慶応大学法学部卒業。スイスIMD BOTプログラム修了。住友商事(株)を経て、グロービスに入社。グロービスでは、企業向けのコンサルティング、及びマネジャーとして組織を統括する役目を担う。その後、グロービス経営研究所にて、講師のマネジメントや経営教育に関するコンテンツ作成を行う。現在は、グロービス経営大学院におけるカリキュラム全般の統括をするとともに、戦略ファカルティ・グループにおいて、経営戦略領域におけるリサーチやケース作成などを行う。講師としては、大学院や企業内研修において、経営戦略領域を中心に担当するとともに、クリティカル・ シンキング、ビジネス・ファシリテーションなどの思考系科目なども幅広く担当する。
Twitter:http://twitter.com/#!/hiroyuki_araki
Facebook:http://www.facebook.com/?ref=home#!/hiroyuki.araki



◆この記事は、「GLOBIS.JP」に2012年3月30日に掲載された記事を、東洋経済オンラインの読者向けに再構成したものです。

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