《ミドルのための実践的戦略思考》伊丹敬之の『経営戦略の論理』で読み解く化粧品・健康食品メーカーの・経理担当課長・小泉の悩み

ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

例えば、もし今までコールセンターからの情報も参考にしながら新商品の開発が行われていたとしたら、アウトソースすることによって、その見えざる貴重な情報源は失われることになります。もちろん、アウトソース先にそのような情報提供を求めることは可能ですが、新たな製品開発にはどのような情報が必要で、どのような情報は逆に無視すべきなのか、どういう顧客からの情報はしっかり扱うべきなのか、情報からはどこまで解釈した上で提供すべきなのか、といったある種の「さじ加減」まではなかなか伝えることは難しいでしょう。

しかし、こういったいわゆる「暗黙知」のメリットを具体的な数値に落とし込みにくいのも事実です。だからこそ、我々はそのような「見えざる資産」に注意を払った意思決定をしなくてはならないのです。

無論、「見えざる資産」には、過小評価の危険性もある一方で、過大評価の危険性もあることに留意しておいたほうが良いのも事実です。つまり、一度失ったら手に入りにくいという側面に固執しすぎるあまり、ビジネスシステムの抜本的な見直しになかなか踏み切れないケースも存在するのです。大事なことは、短期的な数値に過度に偏ることなく、また一方で何らかの変更を加えることを恐れることもなく、企業の長期的な方向性を見据えながら両面を踏まえた意思決定をする、ということです。

■ミドルリーダーにとっての意味合い

さて、それでは最後にミドルリーダーへの一般的な示唆を考えてみましょう。

まず、ミドルリーダーで、自社のビジネスシステムということを真剣に考えている人は残念ながらそれほど多くないように思います。ミドルリーダーが現実的に考えられる範囲は概して、一機能の担当としてその機能がどうあるべきか、ということまでであり、全社のビジネスシステムの全体像についてリアリティを持って語れる人はほとんど見られません。

もちろん自身の担当領域を全うすることは重要なのですが、結果として個別最適が多発し、全社から見れば個々の機能が切り離され、あちらこちらにアウトソースされているような状況となってしまっていることが少なくありません。そう考えると、ミドルであっても、全社のビジネスシステムの流れや課題点、そしてどうあるべきか、ということを自分なりに把握し、そこに照らしながら自身の業務を遂行する重要性が身にしみてくるでしょう。

そのために大事なことの一つは、「自分の業界に対する仮説を持つ」ということです。上記にも述べた通り、ビジネスシステムだけを抜き出した議論はできません。なぜならば、ビジネスシステムとは外部環境との整合性が欠かせないからです。とある環境下であればとても効果的、効率的なビジネスシステムであっても、環境が変われば非効率的なビジネスシステムに変わってしまいます。

したがって、個々のビジネスシステムを見る前に、自分たちがいる環境がどうなっており、今後どう変化していくのか。その環境下で勝ちあがっていくために絶対に欠かせない要件は何であり、自分たちがこだわりたい部分は何なのか。という戦略の基本概念を正しく理解するべきです。ここについては、『企業参謀』など以前のコラムの視点が参考になりますので、改めて業界に対する考察を深めてみてください。

関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事