それを証明するかのように、2015年7月に公表された厚生労働省の国民生活基礎調査では、生活が「大変苦しい」が29.7%、「やや苦しい」が32.7%にも達し、両方の合計である「苦しい」が62.4%と過去最高を更新してきています。これが、現政権が行ってきた経済政策の結果であり、国民生活の実態であると、私たちはしっかりと認識しておく必要があるでしょう。
黒田総裁は日本人の価値観を理解すべき
三井:中原さんは以前から「日銀の金融緩和は間違いなく失敗する」とおっしゃっていましたが、今でもその見通しに変わりはありませんか。
中原:新しいパラダイムのもとでは、「インフレ期待」は米国の経済学者がつくりだした古いパラダイムに基づくカビ臭い理論にすぎません。この理論を信じる人たちは、現実の経済がどのように動いているのかに目をそむけ、いまだに「デフレ=不況」という間違った認識を世間に広め続けています。
そもそも米欧の主流派の経済学者たちは、「20世紀型インフレ」と「21世紀型インフレ」の違いにまったく気が付いていないという問題があります。だからこそ、スウェーデンやデンマークなどのように経済が良好にもかかわらず、デフレだからといって金融緩和を拡大する国が出てくるわけです。これは、異常な状態というしかありませんね(「20世紀型インフレ」と「21世紀型インフレ」については、2月10日の記事「なぜ21世紀型インフレは人を不幸にするのか」を参照)。
三井:インフレ期待は幻想だったということですか。
中原: そのとおりです。私から言わせれば、とりわけ日本人に「インフレ期待」を求めるのは、そもそも大きな間違いであると思われます。米欧社会の価値観では、「インフレになるのであれば、預金していると目減りしてしまう。だから株式を買おう。お金を使ってしまおう」という考え方が、百歩譲ったとして、21世紀型のインフレ経済でまったく成り立つ可能性がないとはいいません。
その一方で、日本人は「インフレになるのであれば、今から節約して生活防衛を心掛けよう」と考える国民性を持っています。「インフレ期待」どころか、「インフレ失望」が働きやすいお国柄なわけです。
三井:日本人としてそれはよくわかります。私のまわりでもそう考える人が徐々に増えてきています。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら