中原:国民の生活水準を考える時に、重要なのは「名目賃金」ではなく「実質賃金」です。このことを否定する方は、この対談をご覧になっているみなさんの中にはおそらくいないでしょう。
データを子細に分析していくと、2013年以降の実質賃金の落ち幅のおおよそ半分が円安インフレによるもの、およそ半分が消費増税によるものと判断することができますが、さらに実質賃金の推移を長いスパンで見てみると、ある重要な事実が明らかになってきます。実質賃金指数はリーマンショック前後に最大で4%も下がりましたが、現政権誕生後の2年で最大4%、2年半で最大6%も下がってしまっていたのです。
政府寄りメディアは真実を伝えていない
三井:行き過ぎた円安では、国民が原油安の恩恵を十分に受けられないと指摘されていますね。
中原:日本にとって原油安という追い風が吹いているにもかかわらず、むしろ2015年も実質賃金が年初と比べて下がっているというのは、アベノミクスの大規模な金融緩和に伴う円安によるものです。
確かに、実質賃金は2015年7月に2年3か月ぶりに前年同月比で0.5%増加し、8月にも0.1%増と2カ月連続のプラスとなりました。そこで政府は、実質賃金の「前年同月比の上昇率」を強調しながら、アベノミクスの効果をクローズアップしてくることになるでしょう。
三井:ところが、それは政府の「ごまかし」だということですよね。
中原:そのとおりです。これからの実質賃金指数を見るうえで注意しなければならないのは、「前年同月比の増減率」ではなく、アベノミクスが始まった「2013年以降の推移そのもの」です。今後の実質賃金の水準が2012年の水準にまで戻っていくかどうかに、私たちは注意を払わなければならないのです。
指数の推移そのものを冷静に見ていかなければ、政権寄りのメディアによる大本営発表にまんまとだまされてしまいかねません。なぜなら、2015年後半から2016年にかけては、円安インフレのマイナス効果が剥げ落ちていくので、単月では対前年比でプラスになる月も出てくるようになるからです。2013年~2014年の2年間における実質賃金の下落率は、リーマンショック期に匹敵するというのに、どうして景気が良くなっているといえるのでしょうか。
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