完璧な料理を求める彼氏と、好かれるため努力する彼女ーー。ドラマ「じゃあ、あんたが作ってみろよ」に見る"家事シェアの現在地"

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勝男が求めてきた理想は、「か弱い」女性を守り泣き言を吐かないマッチョな男性だ。しかし、自分に問題があるとわかれば、原因を追究し、改善する努力を怠らない側面もある。だからこそ、彼は“ハイスペック男子”になれたのかもしれない。そして、鮎美の家事にも自分と同じ努力を求めてきた。

ともあれ、彼は失恋した。その後の態度は、なかなか家事への思い込みを払拭できない現代人への批評にもなっている。

勝男の大好物は筑前煮だ。毎晩のように「鮎美の筑前煮」を再現しようと努力するが、どうしても求める味を再現できない。困り果て、白崎に相談する勝男。勝男の家に来た白崎は、残った筑前煮をカレーにリメイクしながら、キッチンの棚に置いた籠で顆粒和風出汁を見つける。

勝男がいくら作っても鮎美の味にならないのは、この顆粒出汁を入れなかったからだった。それを知りショックを受ける勝男。白崎と一緒に勝男宅へ来た南川は、「裏切られたと思ってる?」と問いかける。しかし、違ったのだ。

勝男がショックを受けたのは、顆粒出汁を使う鮎美に気づかなかった自分に対してだった。作ってもらう生活が日常になると、鮎美が料理する間、勝男はソファに座ってテレビを楽しんでいたのだ。やり直そうと駆け出した勝男は、鮎美が男性と抱き合う様子を目撃してしまう……。

勝男のすごさは、自分に非があると気づいたときの真摯な態度にある。人はなかなか自分の非を認められないし、対面させられてもなお逃げようとしがちだ。

それなのに勝男は自分の問題から目を背けない。だから急激に成長していく。一方で、ふった鮎美もダイナミックに自分を解放し、自分らしさを見つけようとし始めている。

無自覚なまま昭和の世界に浸かっていないか

今、都会の一部では、白崎のように家庭で料理担当を進んで担う男性も増えてきた。しかし日本全体を見渡せば、自活することが難しい環境にいる女性、家事を自分事と見なさない男性はまだ多い。「昭和の化石」のような周囲に囲まれている人も、残念ながら少なくない。

家事シェアを求めるムーブメントはまだムーブメントであって、当たり前ではない。別れる前の勝男と鮎美は、実はあなたやその周囲の一部でもあるのではないか。

私たちも、以前の2人のように、無自覚なまま昭和の世界に浸かってはいないか。あるいは、思い込みから自分を縛ってはいないか。変わりたくても変われないではいないか。

自分たちの鏡として彼らを見てみれば、何が課題かも見えてくるのではないだろうか。

阿古 真理 作家・生活史研究家

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あこ まり / Mari Aco

1968年兵庫県生まれ。神戸女学院大学文学部卒業。

女性の生き方や家族、食、暮らしをテーマに、ルポを執筆。著書に『おいしい食の流行史』(青幻舎)『『平成・令和 食ブーム総ざらい』(集英社インターナショナル)』『日本外食全史』(亜紀書房)『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた』(幻冬舎)など。

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