完璧な料理を求める彼氏と、好かれるため努力する彼女ーー。ドラマ「じゃあ、あんたが作ってみろよ」に見る"家事シェアの現在地"

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令和の今、このセリフだけでイラっとする女性は多そうだ。そんな気持ちを代弁しズケズケ言うのが、勝男の同僚の南川あみな(杏花)。鮎美にプロポーズしてフラれ、落ち込む勝男に南川は、「作ってみたら、その元カノさんの気持ちがわかるんじゃないですか」と言い放つ。

驚いた勝男はしかし、深夜までかかって本当に料理する。その結果、筑前煮は意外に手間がかかり、それなのに鮎美はニンジンやレンコンを飾り切りまでし、2人の生活を彩ってくれていたという気遣いに気づく。

料理をする勝男
(画像:TBS公式 YouTubooより)

勝男は、性別役割分担への先入観が強い。彼女と同棲中で、自分が料理担当という同僚、白崎ルイ(前原瑞樹)が「僕が料理好きなんです」と言うのを、勝男は彼女が料理を作ってくれないと解釈。肉じゃがをめんつゆで味つけしたと聞くと、「邪道だよ」と決めつける。

白崎に「そうやって馬鹿にしてますけど、めんつゆが何でできてるかもわからないじゃないですか」と指摘されると、今度はめんつゆを自作し、使われる調味料が肉じゃがと同じと知る。そして翌日、白崎を誘って作っためんつゆで一緒にそうめんを食べ、前日の暴言を謝る。

めんつゆは意外に簡単に作れるが、そうめんを食べるたびに作るのも手間であることまで考察した勝男。おそらく、白崎が喜んで料理を担当し工夫していることにも気づいただろう。同僚の意見に耳を傾け、実践することで、自分の問題点を顧みる勝男に好感が持てる。

「モテに全振り」してきた彼女の事情

一方、鮎美も変わり始めていた。鮎美は10代の頃、母や姉が男性関係で苦労するのを見て、雑誌で研究し「モテに全振り」してきた。ハイスペックな男性と結婚し、安定した人生を送るために家事能力を磨き、同性から疎まれるほどかわいこぶり、自分を殺してきたのである。

それなのに、“ハイスペック男子”の勝男から受けた待望のプロポーズを断ったのは、その1週間前、「宇宙人みたい」な髪色にした美容師の吉井渚(サーヤ)と知り合ったからだ。渚は自分らしさを貫いているのに、好きな仕事をし結婚までしている。

勝男と結婚すれば安泰かもしれないが、一生懸命作った料理にダメ出しされ続ける毎日が続くのは嫌、と別れた鮎美。渚の家に転がり込んで髪をピンクに染め、隠していた酒に強い自分を全開にし新たな人生を歩き出す。

髪の色を変えた鮎美
(画像:TBS公式 YouTubooより)

もし、勝男が料理にダメ出しをしない男性だったら、鮎美は結婚し、専業主婦へスライドしていたかもしれない。幸か不幸か、恋人のモラハラを受けていたことで、自由に生きる同性を目の当たりにした際、覚醒できたとも言える。

女性のワンオペ家事を当たり前とする2人が化石カップルに見えるのは、ここ10年、家事シェアを求めるムーブメントが広がり、共に暮らすパートナーとは家事をシェアすべき、という価値観が浸透してきたからだ。

同僚からも「一生変わらない」と見なされていた勝男が、失恋を機に変わろうとする様子を見ていると、本人のセルフイメージとは違う意味で彼は理想の男かもしれない、という気がしてくる。

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