世界初、iPS細胞を使って失明を防ぐ

加齢黄斑変性の治療で経過は良好

 解説1)加齢黄斑変性
目に入ってきた光は、眼球の一番奥にある網膜の上で画像を結び、これを電気信号に変えて脳神経に送る。この網膜の中心にある直径 1.5ミリメートルの黄色い部分を黄斑という。ここが視力の中心部分で、一番はっきり見える場所。黄斑部以外のところは、正常な目でもぼんやりと見える程度の視力しかない。このため、この黄斑部に障害があると視力が大きく低下する。
網膜のすぐ下に視細胞を支える網膜色素上皮があり、その下に血管がたくさん通っている脈絡膜がある。加齢によって網膜色素上皮の下に老廃物がたまり、網膜 色素上皮の機能を阻害するのが加齢黄斑変性。網膜色素上皮が老廃物によって炎症を起こし徐々に萎縮していく萎縮型(ドライタイプ)と、脈絡膜内に異常な新生血管ができて網膜色素上皮を押し上げたり、上皮内に侵入したりする滲出型(ウエットタイプ)がある。ウエットタイプでは、異常な新生血管から漏れ出る血液成分や血液が網膜の下にたまって視力を障害する。
現在ウエット、ドライを合わせた日米欧の患者数は3200万人超といわれているが、ドライタイプの治療薬はまだない。一方、日本人に比較的多いウエットタ イプは、新生血管の増殖を抑えるVEGF阻害剤があるが、眼球に直接注射するため侵襲性が高いうえ、数か月に一度、注射を繰り返すうちにだんだん効果がな くなっていくという問題がある。費用も一回20万円程度かかる。 
解説2)高橋博士らの研究
「滲出型加齢黄斑変性に対する自家iPS細胞由来網膜色素上皮シート移植に関する臨床研究」が正式名称。理化学研究所の高橋政代博士と、先端医療振興財団先端医療センター病院の栗本康夫眼科統括部長を中心とする臨床研究(人に対する安全性や有効性を確認する研究)。神戸市立医療センター中央市民病院と合わせ3者連携で進められている。
劣化した網膜色素上皮や新生血管を除去してから、患者自身のiPS細胞から作った網膜色素上皮シートを移植して生着させる治療法。高橋政代博士が1995年頃アメリカのソーク研究所留学時に着想を得て、ES細胞で前臨床試験段階まで開発を進めた。だが、山中伸弥教授のiPS研究の成功を知り、他人の受精卵を用いてつくるES細胞と比べ、免疫拒絶を考慮しなくて良いiPSでの研究を開始した。
よくある誤解は、「この手術によって視力が正常に戻る」というもの。この治療の目的は「それ以上の進行を止めて完全に失明するのを防ぐ」ことであり、正常レベルに治すことではない。現在の標準的な治療法であるVEGF阻害剤注射でも進行を完全に止めることが難しい場合も多く、進行を止めることによる患者のQOL(Quality of Life、生活の質)向上のメリットは大きい。

 

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