フレンチの巨匠・三國シェフ「最初で最後」の家庭料理本に込めた食の哲学。インタビューで語った飽くなき探究心と家庭料理レシピに挑戦した理由

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三國氏は現在も、甘い・酸っぱい・しょっぱい・苦い・うまい(うま味)という五味を鍛えてもらおうと全国各地で活動を続けている。

「小学生たちに、地元の特産が何で、どんな農家の方がいるのか勉強してもらう。次にお母さん方にも協力してもらって、前菜からデザートに至るレシピを作ってもらいます。

そのレシピから僕が1品ずつ選んでコース料理を組み立てる。その後僕が現地へ行き、地元の料理人たちも呼んで、みんなで料理を作って食べるという課外授業をやっています」と説明する。成長した子どもたちが店へ食事にくることも多いという。

三國シェフ
(撮影:梅谷秀司)

家庭料理のレシピ本を作った理由

きっかけを作ったのは「菊乃井」主人の村田吉弘氏と三國氏だ。日本の食を守るために、さまざまな手を打ってきた料理人人生と言える。では、家庭料理のレシピ本には何を込めているのか。

ミクニ流・肉じゃが
ミクニ流・肉じゃがのレシピも(画像:『ザ・シェフ三國の究極家庭おかず』)

「日本人に、食べたいものを1つだけ選べと言えば、多くの人が和食を選ぶのではないでしょうか。でも、日本の家庭料理は和食だけじゃない。今日は和食で、明日は中華。『たまには洋食も食べたいな』と、僕はフランス料理界の人間だから言わせたいし、言わせる義務がある。

その原点は家庭料理にあります。今回の本を通じて、和食や中華だけではなく、フレンチ風のおかずも作ってもらえたら、フレンチを食べたいニーズも膨らむ。膨らませたい」(三國氏)

小樽風あんかけ焼きそば
故郷・北海道での思い出レシピも掲載している。写真は小樽風あんかけ焼きそば(画像:『ザ・シェフ三國の究極家庭おかず』)

自身がフランス料理の道に進んだきっかけも、札幌の米穀店に住み込みで働いた少年時代、その家の娘さんが作ってくれたハンバーグだった。

初めて食べた洋食に感動した三國氏に、彼女は「(札幌)グランドホテルのハンバーグはこんなもんじゃない。キヨミちゃんが食べたら、それこそ腰抜かすよ」と言った(三國氏の著書『三流シェフ/幻冬舎』より)。

とれたての天然素材の味は知っていても、手をかけた料理の味を知らなかった少年は、その後努力を重ねて世界が認めるシェフに成長する。『ザ・シェフ三國の究極家庭おかず』の制作でも、シェフは手を抜かなかった。

ザ・シェフ三國の究極家庭おかず
『ザ・シェフ三國の究極家庭おかず』(主婦の友社)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

本書の編集を手掛けた主婦の友社の森信千夏氏は、ユーチューブ・チャンネル「シェフ三國清三」の人気ぶりを見て仕事を依頼した。「読者が近所のスーパーで揃えられるもので、毎日作れる料理にしてください」という注文に見事に応えた三國氏は、何カ月も試作をくり返してレシピをブラッシュアップさせ続けたという。

レシピを生活に採り入れることは、考案者の思いも受け取ることになる。三國シェフのレシピを使えば、もしかすると自分たちの食文化をどう育てていくのか、次世代にバトンを渡す役割の一端を担うことにつながるかもしれない。

阿古 真理 作家・生活史研究家

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あこ まり / Mari Aco

1968年兵庫県生まれ。神戸女学院大学文学部卒業。

女性の生き方や家族、食、暮らしをテーマに、ルポを執筆。著書に『おいしい食の流行史』(青幻舎)『『平成・令和 食ブーム総ざらい』(集英社インターナショナル)』『日本外食全史』(亜紀書房)『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた』(幻冬舎)など。

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