フレンチの巨匠・三國シェフ「最初で最後」の家庭料理本に込めた食の哲学。インタビューで語った飽くなき探究心と家庭料理レシピに挑戦した理由

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「リンゴの木は土から水や栄養素を吸い上げて実を結び、実が熟したら葉っぱを落とす。落ちた葉っぱは腐葉土になる、というように循環していくのが自然の摂理です。

ところが、人間が肥料をやりすぎると、実が熟しても葉が青々としたままの不自然な状態になってしまう。同じ原理で、素材に塩をするときは多すぎても少なすぎてもだめで、自然な“引き際”が大事なのです」(三國氏)

塩は味つけの決め手となる。かつて福井県若狭地方から朝廷に「若狭ぐじ」と呼ばれる甘鯛を献上する際、甘鯛に若狭で塩を振っておくと京都に着く頃は旨みが表面に出てきて最高の状態で食すことができたという。

同書の中では「塩加減はプロでも難しい」と前置きしたうえで、「人の血液の塩分濃度に近い約0.9%が、おいしく感じる」としている。塩は、なめておいしいと感じる天然塩がベストで、スーパーで売っている国産の塩でいいという。

「本物の野菜」はどうすれば手に入るか?

三國氏は各地の食や食文化についての知見を多くもっている。それは氏が食材だけでなく、食を支える生産者を大切に思っていて、その交流を長年続けている中で得たものだ。

三國氏は講演に赴くと、家庭で台所を預かる女性の来場者からよく、おいしい野菜を手に入れる方法を聞かれるという。その際、「あなたたちはトマトを買いに行くとき、トマトだけを見ていませんか? 買い物する店の店主、もっと言えば生産者の顔が見えて、信頼できるのであれば、その野菜は本物です」と説明するそうだ。

プロの料理人ですら、「このトマトは無農薬」と言われた際、本当かどうかの判断は難しい。「ですから僕は現地へ行って、生産者と会い、生育環境を見て取り引きします。1982年12月に帰国し、シェフになってからずっと47都道府県に出向いてきました」。

今でこそ産地へ赴き生産者と交流を深めるシェフや、メニュー名に生産者の名前を入れる飲食店が珍しくなくなった。三國氏はそのパイオニアである。

三國シェフ
(撮影:梅谷秀司)
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