「貴樹は松村北斗のためにあるような役」「"拗らせてる"けどリア充も楽しめる」 実写版映画『秒速5センチメートル』が予想外に楽しめたワケ
かなり蛇足な楽しみ方だが、貴樹の高校時代を演じる青木柚が、松村の出世作、朝ドラこと連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』(NHK、21年度後期)で、松村が演じた稔の孫に当たる桃太郎役を演じていたのである。
ドラマの中では稔は戦死したので、桃太郎とは出会うことはなかった。だからこそのエモさ。同じ血が流れている役を演じた者同士が同一人物を演じるなんて、『カムカム』ファンには感無量であった。バイアスがかかって、なんだか似ているように見えたほどだ。実は、ここが最大のエモさのようにすら思えた。

また、高畑充希と森七菜は大ヒット上映中の『国宝』(25年)で、主人公(吉沢亮)に関わる重要な役で出演している。
どちらも主人公の業に振り回される役だが、高畑の役はどこかクールでその瞬間の自分の人生を大切にする、実に割り切りのいい人物で、一方、森の役は若さゆえ恋の熱情に溺れがちな役。どこか『秒速〜』と近い役を担わされているのは俳優の資質であろうか。
“リア充”も「秒速」は楽しめる
先述の『国宝』の女性像とキャラがかぶっていないだろうかという話ともつながっているのだが、『秒速〜』で描かれている恋の形、あるいは男性像、女性像が気にかかる。
俗に「女は上書き」「男は名前をつけてフォルダー保存」と言われる類型を描いて、その身もふたもないさまをすてきな絵柄でくるんでいる。言ってみれば「過去に囚われた男が自己陶酔している物語」と表することもできる物語だ。
もちろん、大なり小なり誰もが経験することだと思う。だからこそ山崎まさよしの歌を聞いてひととき浸りまくる映画として、アニメも実写も、人間のもろさをこのうえなく美しい映像に仕上げることに全力を注いだ秀作である。いわば美しくも悲しい自身の歩いてきた道の鎮魂である。
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