マイクロブタの体に起こっていた"残酷な変化"の犯人――「こんなはずじゃ…」は飼い主の言い訳。ブームの裏で起こる問題を獣医病理医が指摘

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僕が解剖を行うブタの多くは一般家庭でペットとして飼われていて、「ミニブタ」あるいは「マイクロブタ」と呼ばれています。

品種改良によって生まれた小型のブタで、大きさは家畜のブタの3分の1(ミニブタ)から5分の1(マイクロブタ)くらい。本来は実験動物だったものが、近年では珍しいペットとして一般にも流通しています。

ブタ全般にいえることですが、性格は穏やか。きれい好きで、体臭はほとんどありません。トイレも決まった場所でします。イヌと同じくらい高い学習能力を持ち、「おすわり」や「待て」なども覚えます。愛嬌があり、見た目にもかわいらしい動物です。

もともと欧米でペットとしてブームになっていたマイクロブタ(ここからはミニブタを含む)は、2010年代後半に日本へ入ってきました。

そして、テレビや動画配信サイト、SNSなどで紹介されるようになると、日本でもペットとしての人気が高まり、最近では街にマイクロブタと触れ合えるカフェまであります。

3割が痩せている個体

そんなペットとして飼われていたマイクロブタを、僕は年に3体ほど病理解剖しています。持ち込まれる遺体の8割方は0~3歳の若い個体で、多くは突然死をきっかけに死因の特定を依頼されます。

異物の誤飲(ブタは好奇心旺盛で何でも口にします)、感染症のほか、死因がわからないこともありますが、特筆すべきは、これまでに病理解剖を行ったマイクロブタの約3割が、冒頭のような「十分に餌を食べられなかったであろうことによる痩せた個体」であることです。

栄養が足りなければ体は脂肪や筋肉を分解して生き永らえようとしますが、その状態が長く続けばやがて力尽きます。

そのようにして死んだマイクロブタは、遺体を一見するだけで、「あぁ……。この子はあまり餌をもらえなかったんだな」とわかります。

僕は毎日のようにさまざまな理由によって亡くなった動物の遺体を診ていますが、十分な餌が与えられず衰弱死した動物の遺体ほど、やるせない気持ちになるものはありません。それは、ひとえに、人間の無知や身勝手によってもたらされた死であるからです。

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