それまでは、周囲にも林さんは頼りになり尊敬できる上司だと称賛していたのですが、今度は逆に「女の武器を使って営業するよう暗に強要された」とか「(林さんは)若い私に嫉妬して、つらく当たるようになった」というような悪口やエピソードを同僚に言いふらしてまわるようになったのです。
しかも、林さんが部下たちのことを「使えない人たちばかり、全員異動させてしまいたい」と役員に報告しているといううそまで、言い出すありさまでした。
しかし、OさんがこのMさんの異常な言動に気づき、彼女の話をそのまま信じないよう、ほかのメンバーに働きかけてくれました。
自死を匂わせるようなメール
部署の同僚たちがMさんの虚言に気づき始めた頃、彼女から「最近の皆さんの冷たさは、私のことを悪者にして円満解決したいということですね。私が会社からいなくなればよいということがよくわかりました。世の中からもいなくなれば、もっとよいのでしょうね」などという、自死を匂わせるようなメールが全員に届いたということです。
このメールに驚いた林さんとOさんは、すぐに筆者のところへ相談に来ました。このケースでは、Mさんの心理的な背景はどのようなものでしょうか。それを理解することが、対処方法を考えるヒントとなることがあります。
Mさんのような人は、根幹に「自分は誰からも必要とされない人間かもしれない」という「見捨てられ不安」を持っています。それゆえ、見捨てられないために、意図的に悩みごとをつくり出しては、誰かに過度に依存したり、人間関係を操作する方法で注目を集めようとしたりしています。
このような人は、普通に付き合っているとなかなかわからないことも多いのですが、「境界性パーソナリティ障害」という精神疾患が隠れていることがあります。
この精神疾患は女性に多く、20〜30代の比較的若い年齢が患者数のピークです。気分の浮き沈みが激しく、情緒面が不安定で、リストカットや過量服薬で救急受診を繰り返すこともあります。
境界性パーソナリティ障害という診断名はつかなくとも、これに近い特徴を持つ人は一定数いて、“頼りにされたら喜びそうな人”を見つけては取り入っていく傾向があります。
しかし、頼っている相手との適切な距離感がつかめず、やがて不安定な人間関係になっていくことが多いようです。


















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