「43歳で喫茶店を開業」「乳がんで手術も1週間で復帰」 90歳の喫茶店店主が《がん罹患後も週7で店に立つ》ワケ

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自己資金は間に合いましたか?と聞くと、あっけらかんと栗原さんは言う。

「予算がいくらオーバーしたって、どっちにしろ私のお金は200万円しかなかったからね(笑)。残りのお金は実家の親にお願いしました。お貸しくだされって神妙に頭を下げて。『喫茶店なんかできるのか?』と心配されたけど、ポンと出してくれましたよ」

ちなみに栗原さんの自己資金200万円は、故郷・三重の名産品である真珠を仕入れて、友人や知人に売り歩いて作ったお金だという。根っからの商売人である。

倉庫の改築から5カ月間、バリスタから修行を受けた後、1978年11月に喫茶店「アレッタ」をオープン。店の名前は栗原さんが名付けた。イタリア語で「小さな翼」という意味である。

「内心は大きく羽ばたこうと思っていたけど、駅から遠くて人通りも少ない場所でしょ。ま、初心は謙虚なほうがいいかと思ってね」

喫茶店アレッタ
営業中、店の空き状況を尋ねる電話が入る(写真:ヒダキトモコ撮影)

オープンすると、店は連日サラリーマン客で大繁盛。その勢いはバブル期まで続いた。専業主婦の行動範囲ではまったく気がつかなかったが、徒歩圏内に大手企業や事業所がいくつもあることをそのとき知った。

「うち以外に喫茶店なんてなかったから、いい場所に作ってくれたって喜ばれてね。朝9時に店を開けるとモーニング、日中はランチやコーヒーを飲みにサラリーマンのお客さんがひっきりなしにやってきました。ランチで来た人が、15時すぎに一服しに来るなんてこともしょっちゅう。『あなたたち、いつ仕事してるの?』って思わず聞いちゃいました。給料取りはいいわねえって」

加えて、店に来る客の会社から、会議用にコーヒーの出前も入るようになる。一番多いときでコーヒー50人前というのもあった。

喫茶店アレッタ
「アレッタ」の食事やドリンクメニュー(写真:ヒダキトモコ撮影)

夫や最愛の息子を亡くした時期も店を開けた

しかし栗原さん1人ではとても手が回らない。そこで中高一貫校に通う長男のママ友グループ7人に声をかけた。全員が専業主婦で、会社社長や重役の奥さまたち。

「あなたたちも働いてみなきゃ。何事も経験。楽しいわよ」と声をかけると、皆が競っておしゃれして手伝いにきてくれたという。

喫茶店アレッタ
料理はオーダーが入ってから1つずつ調理する。しかし作業は手早く、客を待たせることは少ない(写真:ヒダキトモコ撮影)
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