"異様な事故"は起こるべくして起きた… 《杉並の住宅倒壊》が浮き彫りにした「日本の都市」に潜む手つかずの大問題

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今回わかったのは、集中豪雨が地下街や地下店舗、地下駐車場などの浸水だけでなく、擁壁に対しても深刻な被害をもたらしうるという事実だ。集中豪雨を防げない以上、そして、日本の都市は内水氾濫に対してほとんど何の準備もしていない以上、内水氾濫による擁壁の崩壊は今後も起こりうるものだ。また、地震による擁壁崩壊も十分にありうる。

だから、今回の事故は決して特殊なものではない。同じような事故が今後いくら起こっても不思議ではない。堤内氾濫は、堤防の強化によっては対処できない問題であるから、被害が起こりそうな場所について優先的に対策を強めざるをえないだろう。

必要なのは「強化の強制」か、それとも「補助」か

擁壁の安全確保についてとくに重要なのは、現状のように所有者が100%の責任を持つという制度では安全を確保できないということだ。それに対処するため、今後は擁壁に関する条件をさらに強化し、その条件を満たさない擁壁上での建築は許可しないことが考えられる。

しかし、それだけでは十分でない。現在すでに、擁壁は、全国の至るところに建設されているからだ。これらについてはどうするのか。 

擁壁の建設当時には存在しなかった強い規制を現時点で課し、それに適合しない場合には擁壁強化を強制するということが可能だろうか。その強制に従わない場合には、どのような措置がありうるのか。

擁壁
擁壁を用いた傾斜地の宅地造成は今も日本各地で進められている(写真:sarakazu/PIXTA)

さらに、擁壁強化のための出費が必要な場合、それに対して何らかの公的な援助が必要か否かという問題もある。

当該擁壁の安全性が、地域の住環境に重大な影響を与えると考えられる場合には、 擁壁強化のために、一定の公的な援助を支出するという措置は当然考えられる。だが、その財源をどうするかは簡単な問題ではない。また、援助の比率をどの程度にするかも極めて難しい問題だ。

あるいは、問題のある敷地を公的主体が買い上げ、擁壁を強化したうえで、公的な利用に供するということも考えられる。ただし、こうした制度を整備しても、全国に散在する多数の擁壁を一挙に強化することは不可能だ。

劣化の程度などを考慮しつつ、緊急に補強すべき箇所を優先することが必要だろう。その選別は簡単なことではない。

これらは極めて難しい問題だ。そして、極めて高度の政治的判断を要する問題である。そのために、十分な議論が必要だ。集中豪雨が決して珍しい現象ではなくなってしまった今、すぐにでも日本の政治はこの問題を議論し始める必要がある。

野口 悠紀雄 一橋大学名誉教授

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のぐち ゆきお / Yukio Noguchi

1940年、東京に生まれる。 1963年、東京大学工学部卒業。 1964年、大蔵省入省。 1972年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。 一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、一橋大学名誉教授。専門は日本経済論。『中国が世界を攪乱する』(東洋経済新報社 )、『書くことについて』(角川新書)、『リープフロッグ』逆転勝ちの経済学(文春新書)など著書多数。

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