今回の杉並区の場合も、今年の初め頃、「擁壁に亀裂が入って壊れそうだ」という通報が付近の住民からあり、杉並区は近寄らないようにとの注意書きを設けていた。また、持ち主に対して、補強を勧告していた。
ただ、強制はできず、行政指導的な対応にとどまっていた。所有者から、業者の手配ができたとの連絡があった直後に事故が発生したのだという。
結局のところ、擁壁の安全性を確保する全責任はその土地の所有者にあるという現在の制度の限界が明らかになったわけだ。これでは、擁壁近くの住民は安心して住むことができない。問題がある擁壁はここ以外にも多数あるといわれている。その近隣の住民は、つねに潜在的な危険にさらされているわけだ。
「内水氾濫」という新しい水害にどう備える?
この事件がわれわれに突きつけている第2の問題は、擁壁崩壊の原因として9月11日の集中豪雨の影響を無視できないことである。
この日の集中豪雨は、品川区や目黒区、大田区などで、地下店舗への浸水事故など深刻な被害をもたらした。杉並区でも、これまでなかったような記録的な集中豪雨があり、それが地中にたまって、強い水圧となって擁壁を破壊したのであろうといわれている。もちろん、豪雨がなくともいずれは崩壊した可能性があるが、引き金になったとはいえる。
これによって明らかになったのは、日本の都市がこのような雨量に耐えるだけの安全性を確保していないという事実だ。
これまでの日本の洪水対策は、河川の氾濫に備えることを目的としていた。堤防の川側を「堤防外」と言うため、これは「堤外氾濫」と呼ばれる。ところが、9月11日の氾濫は、堤防の市街地側で起こった。これは「堤内氾濫」と呼ばれるものだ。
杉並区の事故地点のすぐ近くには、善福寺川が流れている。この川はときどき氾濫しているので、対策が講じられていた。これは、善福寺川の堤外氾濫に備えたものだ。
しかし、今回事故が生じたのは、堤防の川側ではなく、市街地側だ。これまで対策がなされていなかったところで問題が生じたのだ。
堤内氾濫は、日本の都市が整備された高度成長期には、重視されていなかった災害だ。地球温暖化による気象条件の変化で集中豪雨が起きるようになり、これまで想定されていなかったような堤内氾濫が、新しい危機として私たちの安全を脅かす存在となったのだ。



















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