Aさんのように、透析の副作用による立ちくらみで転倒したときや、夜中に発熱したときなどに相談ができ、必要時には自宅に訪問して対応ができます。また、糖尿病性腎症や透析に必要な薬の調整や服薬管理をはじめ、透析中に欠かせない食事制限(水分・塩分、カリウム・タンパクなど)をどれだけ守れているかなども、主治医に伝えることができます。
これはAさんとは別のケースですが、外来では「お菓子は食べていない」と話していた患者さんの自宅に伺うと、塩からい味のスナック菓子がたくさんありました。
その患者さんいわく、「菓子は甘いもので、しょっぱいものは菓子じゃないと思っていた」とのこと。このように話を聞くだけなのと、実際に自宅に伺って生活の様子を見るのとでは、得られる情報が違う場合もあるのです。
透析中に在宅医療が並行して入るメリットは、ほかにもあります。
なかでも大きいのは「透析をやめる選択肢が出てきている場合」でしょうか。患者さんの生活の様子を知る医療者としての視点から、やめどきについて一緒に考えられるのも利点の1つだと思います。
透析をいつやめるか、難しい問題
透析をいつやめるか。これはとても難しい問題です。
透析を受けている患者さんは年々高齢化しており、透析導入時の平均年齢は71.42歳(2022年、日本透析医学会)という現実もあります。
年齢や病状の進行状況が、やめどきを考えるうえでの大きな判断材料になりますが、がんなどほかの病気によって具合が悪くなって通院そのものができなくなれば、透析を続けるのが難しくなります。
透析は一度開始すると簡単には止められません。中止すれば数日〜2週間程度で腎不全に陥り、亡くなるためです。
どこまで治療を続けるか。入院して最期まで透析を続けられる環境に身をおくのも1つの選択肢ですが、最期まで自宅で過ごしたい場合、優先順位をどうつけて選択すべきか、悩ましい場面も出てきます。
そんなとき、筆者は在宅医療の役割の1つに「患者さんから本音が聞きやすい」ことがあると考えています。
在宅ケアは、医師以外に看護師や介護スタッフなど、さまざまな職種が関わりながら、1つのチームとして患者さんの自宅での生活を支えています。チームの間では患者さんにまつわる情報を、医療や介護という垣根を超えて共有しあっているため、患者さんがふと漏らした大切な一言を、キャッチしやすい環境があります。
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