「役割」を演じるのはなぜこんなに疲れるのか。「理想の母親」「理想の上司」の仮面を外せなくなった人に起こる異変
役割の仮面をかぶるとき、役割にふさわしい考えや振る舞いを多かれ少なかれ自分に課しています。
「管理職たるもの、会社の指示には従うべき」
「管理職たるもの、部下のことを第一に考え、自分のことは二の次にすべき」
「管理職たるもの、部下には寛大な態度で接すべき」
実はこれらは、自分の考えや価値観というよりは、社会に適応しようとして、いつの間にか取り込んだ他人や社会の価値観です。自分のものではない考えや価値観に過剰適応しようとすれば、自分の中で葛藤が起きて苦しくなります。
他人や社会の価値観を、自分に必要かどうかを検証せず、丸ごと飲み込んで「自分のもの」と思い込んでいることを、心理学では「うのみ」といいます。役割に付随するものだけでなく、日常のあらゆる場面で他人や社会の価値観の「うのみ」が起きています。前述の「管理職たるものこうあるべき」にはじまり、「親としてちゃんとすべき」「男の子なんだから」「女の子なんだから」など、親や先生から教えられたことや社会で常識とされている価値観を、無批判に取り込んでいることがとても多いのです。
「人に迷惑をかけてはいけない」の呪縛
私が企業研修でよく例に出すのが、「人に迷惑をかけてはいけない」という価値観です。
これを当たり前だと思っている日本人は多いと思います。しかしこれは、子どもの頃に親や先生から教えられて、いつの間にか無批判に取り込んできた他人の価値観です。
何を迷惑と感じるかは人によってさまざまです。「何々をしないで」と禁止事項が明確であれば対処のしようがありますが、「人に迷惑をかけてはいけない」と言われても、具体的にどうすればいいのかわかりません。うのみにした価値観には明確な行動基準を欠くものが多く、こうした価値観に縛られると生きづらさにつながっていきます。
うのみにした価値観を握りしめていると、そのとおりに振る舞えない自分を責めるので、身動きが取れなくなって人生に行き詰まってしまいます。また、他人にもその価値観を強要しようとして、人間関係もギクシャクするでしょう。
「そういうときもあれば、そうじゃないときもあるよね」と柔軟に考えられたら、人生はもっと楽になります。「どんなに気をつけていても、迷惑をかけてしまうことはあるよね」。これくらいの柔軟性があってちょうどいいと思います。
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