社内にはこうした問題勃発時に、非常に頼りになる“切り札”がいた。生産部門の役員、C氏だ。影のあだ名は「組長」。ドラマに出てくるような悪役顔で、「Cさんに怒鳴られたら、ちびらない者はいない」と噂されるほど恐れられている。
「B。これはどういうことだ! 説明してみろ!」
鬼気迫る勢いの組長。B氏は時折、身体をビクつかせながら説教を聞き続け、その場は懲戒処分の一歩手前の「厳重注意」で決着した。
その後、B氏のセクハラはピタリと止み、被害を受けたAさんは本人の希望もあり別部署に異動。社内はひとまず落ち着きを取り戻した……、かのように見えた。
それから2年。別の女性社員Dさん(32歳)から相談が舞い込んだ。
「あの……B課長が私に“気持ち悪い褒め言葉”を連発するんです。『最近、肌つやがいいね』とか、『今日のスカートはよく似合っているね』とか。『頑張ってるね』と後ろから肩を揉まれたこともありました」
あいつ……まだ懲りていなかったか! 思わず天を仰いだ。そして再犯リスクを考えていなかった我々人事の甘さも痛感した。
再び、“あの人”に登場してもらうしかない。「今度こそは許すまじ」と、鬼の形相で現れた組長。怒号が飛び、椅子から転げ落ちそうになるB氏。処分は一層重くなり、3日間の出勤停止処分になった。次はもうない。B氏は懲戒解雇寸前の崖っぷちに立たされた。
被害者側は「大ごとにしないで」と言う
これまで数々のセクハラ案件に携わったが、被害を受けた社員の多くは、こう口を揃える。
「大ごとにしないでください。職場に居づらくなったら嫌なので」
当事者の気持ちや立場を考えると、もっともな発言だと思う。ただでさえ、つらい思いをしているのに、告発が周囲に漏れて偏見の目にさらされでもしたら、傷は一層深まる。
さらなる二次被害を避けるためにも、人事は被害社員の心を守りつつも、他者に動きを悟られないよう秘密裏に対処する必要がある。
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