人気フォント『貂明朝』や『百千鳥』はこうして生まれた! スマホやPCの文字をイチから手作り、敏腕タイプフェイスデザイナーが紡ぐ"ロマン"
デジタルフォントのデザイナーでありながら、なぜ彼女はこれほどまでに「手で書く」というプロセスを大切にするのでしょうか。
「文字を書かないタイプデザイナーさんもいますが、私のルーツはやっぱり手を動かすこと。実際に筆を持つことでしか生まれない線の表情やバランス感覚を、これからも大切にしていきたいと思っています」
伝説のデザイナーの革新性、文字の巨匠が説く基本、そして書家が示す手書きの美。西塚さんのデザインは、これらの偉大な学びの上に成り立っているのです。
育児と仕事の両立に悩み、退社を考えたことも
プライベートでは、アドビに入社後、29歳で結婚し32歳で長女を出産。クリエイターとして、そして母として、新たな葛藤が生まれました。
「子育てが本当に大変で、大変で……。家事や娘の保育園のお迎えのために、集中している制作を中断するなど、時間が分断されるのがすごくもどかしかったです。一方で、もっと子どもに時間をかけてあげたいという気持ちもあって、一時はフリーランスになろうかと本気で悩みました」
しかし、夫からのある一言が、西塚さんの考えを変えます。
「“それって要は、もっと休みたいってこと?”と言われて、ハッとしました。夫は何気なく放ったひと言でしたが、確かに時間に余裕がある友達をうらやみ、私も自由にお茶したい、みたいな気持ちもあったなと(笑)。
でも、そもそもフリーランスになる=休むということではないですし、今はこの大変な日常から離れたいだけで、アドビを辞めたいわけじゃない。こんなに面白い仕事を手放すのはもったいない。そう気づいたんです」
そこから「アドビが『もうタイプデザイナーはいらない』って言うまでは、ここで頑張り続けよう」と腹を括った西塚さん。この経験から、西塚さんはキャリアと家庭の両立に悩む女性に、力強いエールを送ります。
「母親って、自分の時間や労力を全部、子どもに投資したくなっちゃうこともあると思うんです。でも、子どもの人生と自分の人生は切り離して考えたほうがいい。特に専門職は、一度離れると戻るのが難しいですから、仕事がしたいなら、絶対に続けたほうがいいと思います」

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