人気フォント『貂明朝』や『百千鳥』はこうして生まれた! スマホやPCの文字をイチから手作り、敏腕タイプフェイスデザイナーが紡ぐ"ロマン"

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そんななか、転機となったのが1年生のときに受けた「レタリング」の授業でした。明朝体を自分の手で書くという課題に取り組むなかで、文字デザインの奥深さに、すっかり心を奪われたのです。

「自分で書いてみて初めて、文字はこうやってできているのか! と驚きの連続でしたね。たとえば『福』という字のへんとつくりのバランスはどうなっているのか。横線と縦線の幅の太さや、横線の端にある三角形の“うろこ”(横線の終わりにつけられる小さな飾りのこと)の存在など、これまで気がつかなかったことばかり。普段から見ているはずなのに、全然わかっていなかったんです(笑)」

新たな発見の宝庫だったことに加え、この課題で教授から「うまい」と褒められたことが、西塚さんの運命を決定づけました。「自分に合っているのはこの道かもしれない──」そう感じた西塚さんは文字の世界にのめり込み、大学4年生時には、後にアドビで製品化されるフォント『かづらき』の原型を卒業制作として作り上げました。

念願のアドビ入社後に待っていた“洗礼”

フォントベンダー(フォントの制作会社)を志した西塚さんですが、採用の門は極めて狭く、新卒での就職は叶わず。卒業後はグラフィックデザインの事務所で働きながら、コンテストに出品するなど、文字への情熱を燃やし続けていました。

チャンスが訪れたのは、入社2年後のこと。大学時代の恩師から、「アドビがデザイナーを募集している」という連絡が入り、中途採用に応募したのです。「候補者は何人かいたようですが、大学時代から作りためていた文字の作品や、デザイン事務所で手がけたロゴなどを見せながらフォントへの愛を語り、運よく採用してもらうことができた」と西塚さんは振り返ります。

ところが入社早々、大きな壁にぶつかります。当時のアドビはビジネスパーソンが使うPDFファイルの編集や管理を行うソフトウェア『Acrobat』が事業の主力。デザインソフトの会社という認識で入社した西塚さんは、専門的な技術の話についていけず、苦労することに。

「デザイン事務所での仕事経験しかなかったので、一緒に入った同期の子は知ってるようなことも、私はわからなくて……。今だったら“それ何?”と堂々と聞けるんですけど(笑)、当時は“こんなこと聞いたら恥ずかしいかも”という思いがあったんですよね。

でも、ふと気づいたんです。フォントチームのメンバーは、デザインツールとして『Illustrator』を実践的に使いこなせる人が意外と少ないことに。それがわかってから、変に気張らなくなりましたし、得意なことを活かせる余地があるとわかり、自分の居場所を見つけられるようになっていきました」

『百千鳥』の制作画面
西塚さんは実際に『百千鳥』の制作画面も見せてくださいました(撮影:梅谷秀司)
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