人気フォント『貂明朝』や『百千鳥』はこうして生まれた! スマホやPCの文字をイチから手作り、敏腕タイプフェイスデザイナーが紡ぐ"ロマン"

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そこからのタイプフェイスデザイナーとしての歩みは、常に偉大な先人たちの存在に支えられてきました。西塚さんのデザイン哲学の根幹には、4人の「師匠」からの学びがあるといいます。

西塚さんを支えた“4人の師匠”から学んだこと

まずは武蔵野美術大学時代の恩師である、故・大町尚友先生。大学時代に文字の基礎や面白さを教えてくれ、卒業制作も見てくれた、西塚さんの“文字好き”の原点となった方です。前述したアドビをお紹介してくれた恩師というのも、大町先生のことです。

2人目は、アドビ入社時の上司だった、『小塚明朝』『小塚ゴシック』といった有名フォントの生みの親・小塚昌彦さん。

「とにかく新しいものが大好きな方で、90歳を超えた今もお元気です。大手メーカーでのデジタル写植や新聞書体の開発を経験したのち、“自分のアイデアを実現できるのはアドビではないか”とウチに入社したのは、定年をとっくに過ぎた年齢。実際に新しいフォント制作ツールの基礎を作り上げた、私にとってはボス的存在です」

続いて、『ヒラギノ』『游書体』シリーズを代表作に持ち、2012年から『文字塾』を主宰。現在は『松本文字塾』で指導をしている、70歳の書体設計士・鳥海修さん。

小塚さん退社後の約16年は、正規のタイプフェイスデザイナーが西塚さんだけという“冬の時代”が続きました。まだ実践を積みきれていないなか、アドビの日本語フォントの責任を一人で背負うことに。「作っているものが本当に正しいのか、世に出していいのか、まったく自信が持てず追い詰められていた」という西塚さんを救ったのが、鳥海さんの教えでした。

「鳥海さんたちの世代は、手書きで文字の基礎を徹底的に叩き込まれています。その知識がないままデザイナーになってしまった私に、もう一度、文字デザインの根幹を教えてくれたのが文字塾でした。ここで学んでいなかったら、『貂明朝』は生まれていないでしょう。鳥海さんは恩人であり、大師匠です」

そして最後の1人が、書道家・矢島峰月先生です。仕事として、趣味として、今も書道教室に通っている西塚さんは、峰月先生からデザインの新たなインスピレーションを得ているといいます。

「先生の書は、とにかく圧倒的に美しい。その書を通して、筆使いだけでなく、歴史のなかで作られた形の面白さや見どころなども学んでいます。ただ崩れているのではなく、歴史に裏打ちされた緩やかさや愛らしさ。それを自分のフォントにも取り入れたくて、書道の練習や、毛筆を通してインスピレーションを高めることに努めています」

西塚さんと書道の作品
時には身体より大きな作品を手がけることも(写真:本人提供)
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