人気フォント『貂明朝』や『百千鳥』はこうして生まれた! スマホやPCの文字をイチから手作り、敏腕タイプフェイスデザイナーが紡ぐ"ロマン"
西塚さんは多くの場合、デジタルではなくアナログな手作業からスタート。特に書体の印象を大きく左右する、ひらがなから手をつけることが多いといいます。「原字」となるデザインは、さまざまな太さの筆や鉛筆、時にはiPadで使うアプリ『Fresco』など、コンセプトを具現化するのにピッタリのものを選び、2〜3センチ四方の枠に書き入れていきます。
「納得がいくまで、同じ文字をひたすら紙に書き出し、そのなかから最もイメージに近い形を、じっくりと見比べて選び抜く。その一文字をスキャナーでパソコンに取り込み、デジタルの線(パス)として形を整えていく。その後も修正を繰り返しながら、フォントを完成させていくんです」
人の手が生み出す、温かみのある1本の線。そして、デジタルならではの、どこまでも緻密な設計。その二つが寸分の狂いなく融合して、初めてフォントは形作られていきます。そこには、デザイナーの揺るぎないこだわりが息づいているのです。

「技術先行タイプ」会社の強みを活かし新技術に挑戦
前述の『Illustrator』や『Photoshop』といったデザインソフトで知られるアドビですが、フォント開発においては、他の書体メーカーとは少し異なる、ユニークな強みを持っているといいます。
「他社さんと明らかに違うのは、アプリケーション、つまりソフトとともにフォントを制作していけるという点です。ソフトとフォントの両方を自社で開発しているため、新技術を取り入れたフォント作りを進めながら、それがエラーを出さずきちんと動くかのテストを同時に進めることができる。これが一番の強みですね」
西塚さんはそんなアドビの立ち位置を「技術先行タイプ」と分析。「目新しいこと好きな会社なので、今までできなかった表現に挑戦すると、すごく喜ばれるんです(笑)。私がやりたいことと社風が合っていてありがたいですね」とほほえみます。
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