人気フォント『貂明朝』や『百千鳥』はこうして生まれた! スマホやPCの文字をイチから手作り、敏腕タイプフェイスデザイナーが紡ぐ"ロマン"

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ちなみに、そんな西塚さんにも「職業病」があるのだとか。

「本を読んでいても、ついフォントの形に目がいっちゃうんです。“あ、これはヒラギノだな”とか“この『はらい』のデザインはこうなっているんだ”なんて考え始めると、全然、内容が頭に入ってこなくて。あれ? 今どんな内容だったっけ? って1行前に戻ることもしばしばです(笑)」

原点である『かづらき』を大成させたい!

西塚さんの視線は、今も未来の新しい表現へと向けられています。長年の目標として掲げているのは、自身のデビュー作であるフォント『かづらき』を、本当の意味で完成させること。

「美大の卒業制作だったものをアドビに入ってから整えて世に出したのですが、当時はまだ技術も未熟で、収録できた漢字の数も限られていました。50歳を過ぎた今も、あの卒業制作をまだ卒業できていない、という気持ちが残っていて……。だから現在、かな+漢字で1500字ほどの『かづらき』を、『貂明朝』や『百千鳥』と同じ6500文字まで増やし、大成させたいです!」

『かづらき』フォントの新たな原字
『かづらき』の新たな原字の構想を練る西塚さんは、貴重な現物を広げてくれました(撮影:梅谷秀司)

もちろん、構想中のアイデアはそれだけではありません。

「書道教室で隷書(古代中国に生まれた漢字の書体)の美しい形を教わると、今度は隷書のフォントが作りたくなります。楷書体もいつか挑戦してみたいし、アイデアは本当に尽きることがないんです。ただ、人生で仕事に費やせる時間は限られている。1つのフォントが完成するまでに数年かかる世界なので、これからあといくつ作れるだろう、と考えることもありますね」

最後に、タイプフェイスデザイナーとして生きる彼女の哲学を表す言葉がないか伺うと、力強く返ってきた言葉は、「三度の飯より文字が好き!」。

「もちろん、ご飯は食べないとダメですけどね(笑)。ここまでやってからご飯食べたいな、みたいな感覚で、ご飯の優先順位が後ろに行っても全然平気。とにかく文字と向き合っている時間が幸せなんですよ。新しいフォントをリリースすることもうれしいけど、私が最も楽しいと思うのは、まだ誰の目にも触れていない、テストフォントを作成している瞬間なんです」

その純粋な探求心と情熱を胸に、西塚さんの挑戦はこれからも続いていきます。私たちが次に心惹かれる新しい文字も、彼女のそんなひたむきな想いから生まれるのかもしれません。

西塚さん
今後どのようなフォントが私たちの“文字生活”を彩ってくれるのか、楽しみです!(撮影:梅谷秀司)
高橋 もも子 ライター

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たかはし・ももこ / Momoko Takahashi

埼玉県出身。週刊誌やWebニュース編集部での勤務を経て、2020年よりフリーライターとして活動中。エンタメ分野を中心にインタビューを重ね、これまでに取材した人物は700人以上。芸能人のエッセイ本や写真集のライティングも担当。趣味は旅行サイトと物件サイトを眺めること。始めたいと思っていることはエレキベース。

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