人気フォント『貂明朝』や『百千鳥』はこうして生まれた! スマホやPCの文字をイチから手作り、敏腕タイプフェイスデザイナーが紡ぐ"ロマン"
冒頭で触れたように、西塚さんはフォントの役割を「ファッションであり、聞こえていない声でもある」といいます。
「漫画だと特に、場面ごとにフォントを変えていますよね。モノローグには落ち着いているフォント、叫ぶセリフにはダイナミックなフォント。ファッション誌なら、エレガントな細いフォントを使うなど、それだけで印象がガラッと変わります。そんなところがファッションに通ずるものもあるのかなと」
彼女が言うように、フォントはその文章が持つ「声色」や「まとう雰囲気」を演出し感情に働きかけます。タイプフェイスデザイナーは、私たちのコミュニケーションの根幹を支える役割も担っているのかもしれません。
デザインは筆で「原字」を書くことからスタート
一つのフォントは、どのようにして生まれるのか。その制作工程は、私たちが想像するよりもずっと複雑で、緻密なものです。
西塚さんによると、アドビにおけるフォント制作は3つの要素から成り立っているといいます。文字をデザインするタイプデザイン、文字に情報を与えるエンジニアリング、そして『Illustrator』や『Photoshop』といったアプリケーション上で正しく表示させる技術。
「デザインしただけの文字は、コンピューターにとっては単なる“絵”にすぎません。例えば、その絵に“これは『あ』というひらがなである”という情報を足してはじめて、フォントとしてキーボードから呼び出すことができるのです」
この“絵”を“文字”として機能させるのが、エンジニアの役割。アドビ日本法人のフォントチームにおける制作担当は、西塚さんのようなタイプフェイスデザイナー2人とエンジニア2人という少数精鋭の体制で、それぞれが専門分野に特化することで、クオリティを高く保っているのだそうです。
西塚さんが担当するのは、もちろんデザインの部分で、発案から構想、そして全体のディレクションも主導。まず「どんな用途の、どんな印象を与えるフォントを作りたいか」というコンセプトを固めることから始まります。

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