9割の医師が望まない「自分への延命治療」の実態《アンケートで判明》――「本当はやる意味がない」過度な終末期医療への本音【医師が解説】

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法的根拠の不明確さも大きな問題です。

延命治療中止の際の法的リスクを不安に思う医師は多く、過去の刑事告発事例が医師たちの判断を萎縮させています。現在は厚生労働省のガイドラインや各学会の指針に頼らざるを得ず、これらに法的拘束力がないため、最終的には医師個人の判断と責任に委ねられています。

社会で「死を語る文化」を育てる

日本では、亡くなる場所として病院が最も多く、自宅で亡くなった方は2020年には13.9%、2023年に少し増加傾向でしたが、それでも17.0%に過ぎませんでした。

一方で、「人生の最期を住み慣れた自宅で迎えたい」と考える人は調査によって異なりますが、おおむね6割から8割にのぼります。このように、「現実」と「希望」の間には大きなギャップがあり、これは日本社会が抱える終末期医療の課題を象徴しています。

日本の終末期医療が抱える根本的な問題を解決するためにまず必要なのは、「死を語る文化」を社会に根付かせることです。

現在の日本では、家族間で死について話し合うことが少なく、結果として臨終の場で初めて重要な決断を迫られるという事態が常態化しています。

学校教育の段階から死生観教育を取り入れ、宗教界、教育界、メディアが連携して死をタブー視しない文化を醸成することが重要です。同時に、海外の例を参考にしながら、日本の文化的背景に適した終末期医療法の制定を検討すべきでしょう。

診療報酬制度の見直しも必要です。

前述したように、現在の制度では高額な新薬や手術など、高度な医療技術に高い報酬が設定されている一方、緩和ケアや在宅での看取りの報酬は数分の1から数十分の1と相対的に低く設定されています。

このインセンティブのゆがみを是正し、過剰な延命治療への誘導を防ぐ必要があります。また、緩和ケア病棟や在宅医療の地域偏在を是正し、どこに住んでいても適切な終末期医療を受けられる体制整備が求められます。

最も重要なのは、患者さんの意思を中心に据えた意思決定システムの構築です。多くの医師は自分ならば延命処置を望まず、静かな看取りを選びますが、現実の現場ではそれが難しくなっています。

いま必要なのは、まず家族で話し合い、医師と対話し、本人の声を中心に据えることです。今この瞬間も、全国の医療現場では数多くの終末期患者さんと、その家族が困難な選択を迫られています。彼らが後悔のない選択をできるよう、社会全体で支える仕組みを早急に整備することが求められています。

谷本 哲也 内科医

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たにもと てつや / Tetsuya Tanimoto

1972年、石川県生まれ。鳥取県育ち。1997年、九州大学医学部卒業。医療法人社団鉄医会ナビタスクリニック理事長・社会福祉法人尚徳福祉会理事・NPO法人医療ガバナンス研究所研究員。診療業務のほか、『ニューイングランド・ジャーナル(NEJM)』や『ランセット』、『アメリカ医師会雑誌(JAMA)』などでの発表にも取り組む。

 

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