中国はロシアへの軍事支援を拡大する/習近平はウクライナ戦争長期化へ戦略を転換、もはや中国の同意なしで和平を選択できないプーチン

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この関連で筆者が想起することがある。1986年に旧ソ連と中距離核戦力(INF)全廃条約の締結交渉を進めていたアメリカに対し、当時の中曽根康弘首相がひそかに行った対ソ交渉方針修正提案だ。

2018年の外交文書公開で明らかになった主な経緯は以下の通りだ。

交渉の過程でソ連側は欧州部でのINFの全廃に前向きな姿勢を示したが、アジア部での削減や撤去を拒んだ。これではアジアが核軍縮の歴史的流れから取り残されると危機感を抱いた中曽根氏は、レーガン米大統領に書簡を送り、交渉方針の変更を求めた。これが「欧州ゼロ・アジア50%」という米方針の撤回をもたらし、最終的に史上初めて核兵器を削減することになった1987年のINF全廃条約の実現につながった。

求められるビジョンに基づく日本の積極外交

つまり、所詮は欧州の問題と片付けられかねなかった当時の核軍縮交渉を、日本が関与してアジアに引き付け、世界規模での核軍縮の枠組みを実現したのだ。広い国際的ビジョンに基づいた中曽根氏のこうした積極的外交の再現こそ今、日本外交に求められている。

ウクライナ情勢をめぐる最近の日本外交の不活性化を見るにつけ、筆者はこの思いに強く駆られる。本来であれば、実効的で持続性のある和平を実現するために日本は、結果優先で強引な仲介を進めるトランプ政権よりも、ウクライナに寄り添う立場を取る欧州との連携を図るべきだと筆者は考える。

これこそ、ビジョンに基づいた積極外交の再現である。しかし石破茂政権としては、トランプ政権との関税交渉に悪影響をもたらしてはならないとの懸念から、ウクライナ情勢をめぐり、アメリカと距離を取る立場は公然と取りにくいという事情があるようだ。非常に残念だ。

吉田 成之 新聞通信調査会理事、共同通信ロシア・東欧ファイル編集長

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よしだ しげゆき / Shigeyuki Yoshida

1953年、東京生まれ。東京外国語大学ロシア語学科卒。1986年から1年間、サンクトペテルブルク大学に留学。1988~92年まで共同通信モスクワ支局。その後ワシントン支局を経て、1998年から2002年までモスクワ支局長。外信部長、共同通信常務理事などを経て現職。最初のモスクワ勤務でソ連崩壊に立ち会う。ワシントンでは米朝の核交渉を取材。2回目のモスクワではプーチン大統領誕生を取材。この間、「ソ連が計画経済制度を停止」「戦略核削減交渉(START)で米ソが基本合意」「ソ連が大統領制導入へ」「米が弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約からの脱退方針をロシアに表明」などの国際的スクープを書いた。また、2024年7月9日付の東洋経済オンライン「金正恩がロシアに工兵部隊の派遣を約束した!」で、北朝鮮がウクライナ侵攻への派兵を約束したことを世界で最初に報じた。

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