もともと2022年のウクライナ侵攻後、中国はインドとともに、日米欧の経済制裁で余ったロシア産原油の輸入を大幅に増やすことで、プーチン政権に戦費をもたらしている。
国連安保理常任理事国である中国としては、国連憲章が定める武力不行使原則に明確に違反するロシアに軍事的支援を公然と行っているとの批判を避けたいとの思惑があった。このため、対外的には中立を装い、ロシアへの軍事支援の事実を認めてこなかった。
しかし、上記したように軍事支援を拡大していけば、いずれ支援の事実が公然化し、米欧からの批判の矢面に立つことは不可避だろう。
では、なぜ今、中国がこうしたリスクを承知のうえで軍事支援を拡大しようとしているのか。
なぜ習近平はウクライナ戦争の戦略を転換したのか
その背景には、ウクライナ情勢をめぐる習近平の戦略の大きな変化がある。それは、早期の戦争の平和的解決を望むという公式的立場をかなぐり捨てて、ロシアが敗北に追い込まれ、早期に侵攻が収束する事態を、中国の武器支援によって回避することを最優先するという戦略への転換だ。
この変化を象徴したのが、欧州連合(EU)のカラス外交安全保障上級代表との2025年7月はじめの会談における中国の王毅外相の発言だ。王氏はウクライナに侵攻したロシアの「敗北は見たくない」と発言した。その理由として、王氏はカラス氏に対し、トランプ米政権の関心がウクライナ問題から中国に向かうのを懸念していると率直に述べたという。
要するに、トランプの最大の外交的関心事がウクライナから中国に移り、習政権に対し、軍事・経済的圧力を高めてくることを恐れているのだ。
こうした中国の新たな戦略は次のように総括することができる。つまり、今やウクライナ情勢における習近平にとっての国家利益は、平和実現ではなく、3年半以上が経過した戦争がさらに長期化することにあるのだ。
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