シャープを救った台湾企業、鴻海(ホンハイ) サムスン潰しへの野望
「隣の会議室、隣のラインがどうなっているかは通常、意識しなくても見えるもの。それが鴻海ではまったくわからない。工場の全体像も想像できなかった」
異様ともいえるほどの徹底した秘密保持も、当然ではある。鴻海はありとあらゆるメーカーの製品を手掛けている。同じ工場内はおろか、すぐ隣のラインにライバルメーカーの製品が流れることも珍しくない。
鴻海が手掛ける製品分野は、スマホからパソコン、家庭用ゲーム機、液晶テレビ、データセンター用サーバーと多岐にわたる(図)。しかも、各分野で主要メーカーを軒並み顧客に抱える。パソコンなら首位のヒューレット・パッカードから5位の台湾・アスースまですべてお得意様だ。製品には鴻海のホの字もないから気がつかないだけで、日本のどの家庭、どの企業にも、大量の「鴻海製品」があるはずだ。
ずば抜けた規模に達した鴻海は今や、業界の共通工場である。デジタルガジェットの鮮度が生鮮食品のように落ちる時代。3万人の金型技術者が、他社の数倍のスピードで製品を量産ラインに載せていく。大量の部品調達が、圧倒的な原価低減力を生む。
メーカーにとって鴻海は、ライバルと生産面での競争力を等しくできる「競争のための前提条件」とさえいえる。実際、日本の携帯電話メーカーの中には、鴻海に生産委託を打診したが「生産数量が少なすぎる」と断られ、結果として海外市場への本格進出を再考せざるをえなかった例さえある。