曳舟・京島の界隈を歩いて話を聞いていると、この地域ではUR都市機構がかなりの頻度で話題にのぼる。京島は木造の密集地域だ。UR都市機構には「密集市街地整備部」という部署が存在する。大野さんはそのうち、城東都市再生事務所の事業計画第1課長だ。彼らは、街の住みやすさを向上させるために、様々な計画を実現させている。
今回こちらに取材を申し込んだのは、UR都市機構のこうした動きと、100年前のデベロッパーである越後三人男とが、どこかで重なって見えたからだ。
「たしかにUR都市機構の前身は日本住宅公団です。これは戦後の住宅難のもと、郊外の造成地やニュータウンの開発などを進めてきた歴史があります。越後三人男が関東大震災の長屋群を造成し、コミュニティを形成してきた、という視点には、似ているところがあるのかもしれませんね」(大野さん)
味わい深い長屋街だが、安全性は課題
100年前に建てられた長屋群は、迷路のように入り組んだ場所が少なくない。それが風情でもあるのだが、一方で安全性の問題が指摘されている。
「京島は典型的ですが、密集市街地として位置づけられている地域には、木造建物が多くて道が狭いうえに、行き止まりになっていたりします。地権関係が複雑だったりして、建て替えが進まないことも特徴です。いったん火災が起きれば延焼の危険性が高いし、細く曲がりくねった道路は、緊急自動車の進入を妨げます」(大野さん)
UR都市機構は、そうした地域の土地を買い取り、新しく直線で広い道路を敷設するために用地提供を行っている。
「密集市街地の整備コンセプトは“ボトムアップ+バリューアップ”ですが、以上のような取り組みがボトムアップにあたります。一方バリューアップは、単に土地の再開発にとどまらず、地域の拠点作りなどにも気を配ることを指しています。地域の拠点をつくることで、普段づかいの関係性を後押しし、いざというときに顔が見えるつながりが防災にも直結するからです」(大野さん)
京島地区の「下町人情キラキラ橘商店街」では、UR都市機構の土地に誰もが使用可能な野外卓球台を設置するアートプロジェクトが展開されている。今回話を聞いた「ノウドひきふね(墨田区東向島2-29-13)」も、誰もが使えるコミュニティ施設のひとつだ。東武鉄道の曳舟駅から歩いて1分の場所にあり、カフェや学習スペースを設置している。こうした場を複数つくることで、地域の価値を高めているわけだ。



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