5人の命が奪われたタイタニック見学ツアー事故の全容を、オーシャンゲートCEOの実態とともに沿岸警備隊が報告
その後も、何度か発生したトラブルに根本的な対策がとられることがないまま、ついに最悪の事故が発生した。2023年6月18日午前10時47分、タイタンの船体は「圧力容器の構造的完全性を損ない、瞬間的かつ壊滅的な圧潰を引き起こす重大な事象」に至ったとされている。
海中からの謎の音
その瞬間と思われる時間には、海上のスタッフらが何かが弾けたような音を聞いていたが、すぐにはそれが何かわからなかった。程なくして、タイタンからの連絡は途絶えた。
この「重大な事象」は、タイタンが潜水を開始してから90分後に発生した。このとき、圧潰したタイタン内の乗員には瞬時に約34.5Mpa(メガパスカル)の水圧が全方向からかかったと考えられる。この圧力は1cm³あたり約351.5kgに相当する。身長175cm、体重65kgの人の体表面積(BSA)を約1.8m²と仮定すると、乗員は約6.3トンもの圧で押しつぶされたと考えられる。
この日タイタンに搭乗していたのはラッシュ氏のほかに、タイタニック号沈没事故の研究者でベテランダイバーだったフランスのポール=アンリ・ナルジョレ氏、英国の実業家ヘイミッシュ・ハーディング氏、そしてパキスタンの富豪シャーザダ・ダウード氏とその妻の代理として見学ツアーに参加した19歳の息子スレイマン・ダウード氏だった。
ラッシュ氏の安全性軽視の背景には、深刻な財政的プレッシャーがあった可能性が指摘されている。事故発生の前の冬には、オーシャンゲートは保管費用削減のために、タイタンをカナダ・ニューファンドランド島の屋外に放置していた。その結果「極端な温度変化によって、タイタンの船体構造の安全性が損なわれた」とも報告書は指摘している。細かなトラブルが発生し、予想される船体強度の低下もきちんと監視していなかった圧潰事故は、起こるべくして起こったと言えるだろう。
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