日テレ「偽装の夫婦」高視聴率を生んだ仕掛け あの「家政婦のミタ」の名コンビはブレがない

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これは決して手を抜いているのでも、発想力が乏しいのでもなく、「本当に描きたいこと、ドラマ性の高いものを作品にしよう」としているから。2人は「ドラマは身近な人々との関係を扱ったものであり、その本質には必ず愛がある」という信念を持って制作しているのです。

これまで『女王の教室』では先生と生徒を通して、『家政婦はミタ』では家政婦と雇い主の家族を通して、『〇〇妻』では壮絶な過去を持つ妻と夫を通して、「愛とは何なのか?」を見せようとしてきました。『偽装の夫婦』も同様であり、それを一層鮮明にするために「変人の妻」「ゲイの夫」という設定を用意したのです。

ドラマ界で稀有な“着せ替え力”

現在のドラマ業界には、「設定やキャスティングありきで、軸となるものがない」作品も多いのですが、太平さん×遊川さんコンビは「軸となるものありきで設定やキャスティングを考える」という形を採っています。これは極めて正当なドラマ作りであり、本来はこうあるべき姿ですが、視聴率やスポンサー、芸能事務所を気にするあまりそれができていない作品も多く、必然的に2人の作品が脚光を浴びることになっています。

たとえるなら、前者が「商品の内容はさておき、包装紙ばかり選んでいる」のに対して、後者は「売りたい商品を決めてから、どの包装紙で包むのか選ぶ」というイメージでしょうか。もう少し具体的にたとえるなら、『ガリガリ君』が「かき氷のアイスバー」という軸ありきで、季節に応じたさまざまなフレーバーを発売しているようなものです。

ドラマ業界でこのように軸を重視しながらパッケージを入れ替えられる、すなわち“着せ替え力”があるスタッフはあまり見かけません。希少だからこそ、その軸はすでに「大平×遊川」というひとつのブランドであり、ひとつのジャンルにすらなっている感があります。

プロデューサーに求められること

次に、大平さんと遊川さんの関係性を考えてみましょう。これまで2人は、前述した4作に加えて『平成夫婦茶碗』(遊川さんは企画プロデュース)『幸福の王子』『演歌の女王』『学校じゃ教えられない』『曲げられない女』『リバウンド』(いずれも日本テレビ系)と計10作を手がけてきました。

大平さんのプロデューサーデビュー作から遊川さんとタッグを組んだこともあって2人の関係は、立場を超えて師弟に近いところからスタートしたようです。そして、出会いから16年が過ぎた今年、筆者は2人に話を聞く機会に恵まれたのですが、その関係は戦友のようなものに変わっていました。

大平さんを見て「これは参考になる」と思ったのは、強力なスキルや個性を持つ人と仕事をするときのスタンス。大平さんは、大物脚本家である遊川さんを信頼して前面に押し出しつつも、議論することをいとわず、それでいて、お互いの妻の話にまで花を咲かせるゆとりを持ち合わせていたのです。

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