五十路を越えると「土いじり」がしたくなる不思議。ブルーベリー収穫体験で思い出す"夫といちご狩り"《くらたまの「人生後半 独り旅」》
「商業的にはイマイチで、兼業で塾の先生をしています」
Aくんは、日焼けした顔とのコントラストがくっきりした白い歯を見せて笑いました。
「農家に対して、国とか自治体の援助ってないの?」
「うーん、少なくともうちにはほとんどないですね」
雑談をしながら歩き、ブルーベリーの木々が植わっているエリアに到着しました。
「へえ、ブルーベリーってこうやって実るんだ。初めてちゃんと見たよ」
あまり背の高くない低木の枝に、みっしりと青い果実がついています。ぶどうとも、きいちごとも違う、南天のような実の付き方でした。
「見た目ではわかりませんが、甘いのと酸っぱいのがあります。一粒食べてみて、甘いやつと同じ房のものを採ってください」
「そんなに違うの?どれも美味しそうだけど」
「違いますね」
実際、口にしてみると、言われた通り甘いのは甘いけど酸っぱいのは結構酸っぱい。でも、どちらもすっきりとした後味で、いくらでも食べられそうです。
手桶の中は青い実でいっぱいに
「ブルーベリーって、美味しいね!癖になりそうだよ」
私は次々ブルーベリーの粒を口に放り込みながら、手桶に収穫していきました。酸味と甘味、鼻に抜けるブルーベリー特有の香りがたまりません。
とはいえ、遮るものもなく、肌に突き刺さる日差しは痛いくらいです。汗も滝のように流れてきました。
「暑い!一番暑い時間帯に来ちゃったね」
「そうですね、午前中や夕方だともう少しマシですが」
「でも、汗をだくだくかきながら爽やかなブルーベリーを採って食べるって、ぜいたくだよね。喉も潤うし」
今までしたことがある果物狩りといえばいちご狩りですが、清潔なビニールハウスの中で整然と並ぶいちごを採るのと、炎天下で雑草を踏みしだきながらブルーベリーを採るのとでは随分違います。
「夫は都会っ子だったから、いちご狩りのほうが好きだろうな」と、ブルーベリーの木々を渡り歩き、流れ出る汗を拭きつつ思いました。夫といちご狩りに行ったとき、練乳をどっさりかけて、うれしそうに食べていた姿を思い出しました。
30分にも満たない時間でしたが、手桶の中は青い実でいっぱいになりました。
「うちが近いんで、ちょっとお茶でも飲んでいってください。母も倉田さんに会いたがっていたから」
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