このことについて、「もっと早く決めるべきだ」「なんとなく、で東大に入るなんて間違っている」と考える人もいるでしょう。でも実はこの「夢が決まっていない」という状態こそ、東大生の「強さ」の源泉かもしれないのです。
「未決定」であることの価値
現在の教育現場では、キャリアの“早期決定”が一種のトレンドになっています。高校1年生のうちに志望大学を明確にすることを求める学校もありますし、「キャリアデザイン教育」の名のもとに、早い段階から進路を具体化するよう指導するケースも増えています。
それ自体は決して悪いことではありません。早くから自分の将来に向き合うことで、明確な目標意識を持って受験や学習に取り組めるというメリットもあるでしょう。
ですが一方で、「まだ決まっていないとダメ」「何者かにならなきゃいけない」といった強い圧力が、子どもたちの柔軟な成長を妨げている面もあるのではないでしょうか。
むしろ、将来が決まっていないからこそ、東大生たちは広く学び、柔軟に思考することができているのではないか――私はそう考えています。
例えば、将来の職業が決まっていない状態だからこそ、文系でも「いつか役立つかもしれない」と工学系や理学系などの授業にも積極的に参加することができる人もいるでしょう。
反対に、「自分は建設会社に就職するから文学なんて不要だ」と、必要性のない学びを切り捨ててしまう学生もいます。学ぶ意味を「将来の役に立つかどうか」だけで測ってしまうと、学びの幅も意欲も小さくなってしまうのです。
また、将来の進路が未定であることは、のびのびと学べる環境をつくる効果もあります。目的が決まっていないからこそ、純粋な知的好奇心で「面白そうだから学んでみる」「今は役に立たなくても興味があるから触れてみる」といった姿勢が育まれるのです。それこそが、学びの本質ではないでしょうか。
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