最近すっかり聞かなくなった《メタバース》に今さら参入した三菱UFJ銀行、「あっ!なるほど」と思わず声が漏れた"狙い"の深層

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しかし、日本銀行のゼロ金利政策の解除により状況は一変した。収益環境の改善で、銀行は再び顧客との関係性構築に投資する余力を得た。同行も「個人のお客様との関係性をしっかり大事にしていく」方針に転換した。

店舗の役割も根本的に見直している。従来の手続き中心の機能から、顧客が1人では解決できない問題について金融のプロが相談に応じる場へと再定義した。有人チャネルならではの付加価値を提供する拠点として、店舗を位置づけ直したのだ。

この新しい店舗戦略の象徴が、9月に開業を予定している高輪出張所だ。商業施設「ニュウマン高輪」内に立地し、平日夕方や土日祝日も営業する。これまで銀行がサービスを提供してこなかった時間帯や場所での営業により、新たな顧客層との接点創出を狙う。

メタバースは、この高輪店舗への動線の1つとして企画された。「これまで接点を持てていなかったお客様をどうお呼びするか」という課題への答えの1つが、メタバースだった。

「ハードルの高い銀行」というイメージをぶち壊す

では、なぜ新客層開拓の手段としてメタバースを選んだのか。そこには銀行が長年抱える課題があった。

「銀行店舗は、一般の方々から見ると、事務手続きなど用があるときには行くけれど、用のないときは足を向けるハードルが高い」と、前出の木田氏は分析する。金利上昇で資産運用への関心が高まりつつも、銀行への心理的なハードルは依然として高い。さらに「普通の店舗に行くと何かを売りつけられそう」という不安を抱く顧客も少なくない。

メタバース内のセミナールーム。リアル店舗同様にセミナー開催が可能で、物理的な距離や人数の制約を受けずに金融セミナーを実施できる(画像:筆者撮影)

メタバースなら、こうした課題を解決できると判断した。アバターを使って匿名性を保ちながら、銀行員と1対1で相談できるからだ。名前も連絡先も明かす必要がないため、売り込みを受ける心配がない。オープンな空間でありながら、応接室では完全にプライベートな環境を確保できる。

「匿名性を保ちながら、ハードルの高い銀行に親密感を持ってもらい、接点を持ってもらう」(木田氏)ことが狙いだ。

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