"濡れ手で粟"のビジネスに味を占めたアメリカでは、いくら高関税をかけても製造業は復活できない
ボーイングはコスト削減をはかり、枢要な開発部門を閉鎖したためエンジニアの開発意欲を削いだ。四半期ごとの決算発表は短期的な利益追求が株主の要求だから長期的な企業戦略の立案、実行は困難となる。視野狭窄で経営陣は利潤のみを追求した。エンジニアの開発精神を萎縮させ、技術力は凋落した。
アメリカの産業力の衰退は鉄鋼、造船から始まった。鉄鋼の町ピッツバーグなどはラストベルト地帯と呼ばれ、急速に寂れた。アメリカは日本を逆恨みしたが、筋違いである。
技術開発を怠ったからだ。日本製鉄のUSスチールの買収案件にしても、日本との提携が進まなければ、技術力はさらに衰退する。
ようやくそのことを理解できたトランプは2025年5月30日に日鉄のUSスチール買収を条件付きで認め、自らピッツバーグへ飛んで工場労働者の前で演説し、同工場を見学した。
晴れた日も見えなくなった「GM」
アイアコッカが再建したと自慢したクライスラーもまた沈没し、テスラが新興勢力として伸びた。
かつて黄金の日々、「晴れた日にはGMがみえる」とその全盛を描いたベストセラーも日本勢に押され、斜陽が甚だしくなってデトロイトが寂れた。GMは晴れた日も見えなくなった。
ボーイング社は未曾有の赤字に転落し、ワシントン州、オレゴン州、カリフォルニア州工場で従業員3万3000人が加盟する労働組合は会社側との交渉条件を拒否しストライキを続行した。
「賃金が何年もインフレに追いついていないにもかかわらず、役員賞与に数百万ドルを費やしているのはナニゴトカ」と40%の賃上げを求めた。このストライキによってベストセラーだった737MAXMAXと737ワイドボディ機などの生産が停止した。
世界の半導体を牽引してきたインテルも2兆5000億円という巨額の赤字に転落し、2024年12月にゲルシンガーCEOは退任した。
トランプはこうした産業の衰退をいかに回復させるか、高関税を「美しいし、歳入が増える」とのたまう以外に、具体的政策を持っていない。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら