その是非はともかく、人は人間としての「自由」を動物には当てはめない。私たち人間のことに関する助言を与える科学者と、家畜に関すること、たとえば家畜にワクチンを接種させるべきかどうかを決める畜産農家とのあいだには、とてつもなく大きな違いがある。
それは、人は他者のことを自律する一個人として認識し、他者にも自分に対して同様の敬意を払うことを期待するからだ(高齢の身内や幼い子どもに代わって決断を下す人がひどく苦悩する理由のひとつとして、決める権利は他者ではなく当人にあるとの思いから、たとえ無理でも当人の意向を尋ねたいという気持ちが生じることが考えられる。一方、動物に対してはそういうふうに考えようとしない)。
他者の意思決定にかかわらざるをえないことも
ときには、自分で決断できない人の代わりではなく、決断の結果の影響を共通して受ける集団や地域の一員として、意思決定にかかわらざるをえないこともある。心臓発作で意識を失ったときのようなケースでは、民主的な意思決定の手段は採用したくないだろうが、その手段である投票は、集団や地域に属する人々に影響が及ぶ決断に全員をかかわらせることができるものだ。
集団で意思決定を行うとなると、対立しうるさまざまな関心事や価値観をはじめ、信頼できる事実や専門家に関する多様な意見を考慮する必要性が出てくるだろう。
本書の後半では、集団で協力して情報を評価し、互いの価値観を比較検討してじっくりと吟味できるようになる方法をいくつか論じ、民主的な手段として広く知られる投票という行為の質の向上に努めたい。
また、特殊ではあるが、もっとも影響を受ける人に決定権がないケースもある。すでに紹介した当人に決断する能力がないケースもそのひとつだが、それに加えて、個々人に決断を委ねると個人の枠を超えた影響が生じるケースがあるのだ。
オートバイの運転時にヘルメットの着用が求められているのがまさにそれで、パンデミックのときは保健機関に休校にする権限が委ねられるというのもこのケースに当てはまる。だがほとんどの場合は、影響を受ける個人や集団に決定権があると思えばいい。
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そーる・ぱーるまったー / Saul Perlmutter
宇宙の加速膨張を発見したことで、2011年にノーベル物理学賞を受賞。カリフォルニア大学バークレー校物理学教授。ローレンス・バークレー国立研究所シニア・サイエンティスト。アメリカ科学アカデミー、アメリカ芸術科学アカデミー、アメリカ哲学協会をはじめ、多数の団体の会員を務める。寄稿した記事が話題になることも多く、アメリカの公共放送サービスやディスカバリーチャンネル、BBCのドキュメンタリー番組にも出演経験がある。
ジョン・キャンベル
カリフォルニア大学バークレー校哲学教授
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じょん・きゃんべる / John Campbell
グッゲンハイム・フェロー、NEH(アメリカ国立人文科学基金)フェローを受賞しており、ESPP(欧州哲学および心理学会)の会長を務めた経験を持つ。また、スタンフォード大学が運営する行動科学高等研究センターのフェローを務めたほか、オックスフォード大学のワイルド精神哲学教授の教授職を授与されており、オックスフォード大学コーパス・クリスティ・カレッジの教授研究員、英国学士院研究員という肩書も持つ。2017年にジャン=ニコ賞を授与された。
ロバート・マクーン
社会心理学者。法学教授。スタンフォード大学フリーマン・スポグリ国際研究所シニア・フェロー
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ろばーと・まくーん / Robert MacCoun
1986年から1993年までランド研究所で行動科学の研究員、1993年から2014年までカリフォルニア大学バークレー校で公共政策および法学教授を務めた。2019年には長きにわたる心理学への貢献が認められ、アメリカ心理学会からジェームズ・マッキーン・キャッテル・フェロー賞が贈られた。
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はなつか めぐみ / Megumi Hanatsuka
福井県福井市生まれ。英国サリー大学卒業。英語講師、企業内翻訳者を経て現職。主な訳書に『SLEEP 最高の脳と身体をつくる睡眠の技術』『イェール大学集中講義 思考の穴 わかっていても間違える全人類のための思考法』『STOIC 人生の教科書ストイシズム』(ともにダイヤモンド社)、『最後は言い方 これだけでチームが活きる究極のスキル』(東洋経済新報社)、『THE POP-UP PITCH 最もシンプルな心をつかむプレゼン』(かんき出版)などがある。
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